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□破った約束
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私には、友達がいた。

その友達は、ある種、特別だった。
同じ世界に居ながら、敵になる職業を志す同士だった。

…全て過去形だが、今でも友達だ。







あれは、中学の卒業式が終わって…最後のホームルームも終わった後。
雨が降っていた。恒例の、外での後輩達による見送りは無かった。
散々騒いだ後、随分な人数がすでに帰った教室で、私は、自身でも信じられない行動に出た。

「九条!」
「ん?」

そいつは帰り際だったようだが、私は呼び止めた。

この九条が、くだんの友達。
私は弁護士を目指していて、九条は検事を目指していた。


別々の高校に進学する。
このまま、中学生最後の日を終えていいのか?
おそらく、そう思ったのだろう。


私は、5メートル離れた所から、九条に指を突きつけた。

「いつか、」

ただ、純粋に追いかけたかった。
高みに居るライバルとして。


「あたしを敵に回したことを後悔させてやる!!」


ぽかん、とした後、相手はくすくす笑っていた。

「お前…なに言ってんの、馬鹿じゃね?」
「な…」
「お前なんか敵にしたってどってことねーよ」
「ムカつく…!絶対後悔させてやる!!」
「わかったわかった、楽しみに待ってるよ。高校行っても頑張れよな。じゃ」
「ちょ…ちょっと、後悔うんぬんはともかく、約束忘れないでよね!」
「はいはい」

"法廷で会う"。

それが、約束だった。







…時は流れて、3年後。
高校卒業間近のコトである。


"九条は大学ドコ行くん?"
"俺は例のとこ。お前は?"
"あー、私は大学へは行かない"
"…は?"

この時初めて、大学に行かないことを九条に告げた。メールでの会話だったが、動揺が伝わってきた。

それはそうだろう。
あの日の"後悔させてやる"という宣言を覆し、夢を叶えて会う約束を堂々と破る発言。当然、罪悪感が無い…と言えば嘘だ。
志を変えたのにはもちろん相応の(自分勝手な)理由があるのだが、その理由については一言も述べなかった。

"じゃぁドコ行くんだよ?"
"専門学校。ゲーム系の"
"……そう。頑張って"
"ありがと。そっちも頑張って"
"おう"


この会話はここで終わった。
それから一度も会うことも、メールすることも無く、私は母校を卒業した。


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