* * * * * 




9月も半ばを迎えて、朝晩はめっきり涼しくなった。
日中里を通り抜ける風も夏の頃の湿気をなくして、ひんやりと心地良い。

高く碧く澄み切った空には一片の雲も見当たらない。
そんな清々しい午後の一時、俺は木の枝に腰掛けて愛読書のページを捲っていた。


本日の任務は養鶏場での鶏の世話。
養鶏場といっても狭苦しい小屋なんかではなくて、だだっ広い牧場の様だ。
部下達が晴天の下走り回る鶏を追い掛けながら悪戦苦闘しているのが良く見える。



今夜は7班の子供達と一緒に、一楽で俺の誕生日パーティーをやる事になっている。
パーティーといってもただラーメンを食うだけなのだが、イルカ先生の時と同じように俺のラーメン代は子供達が出してくれるらしい。

俺が甘い物が苦手な事を知っている筈のサクラが手製のケーキを用意すると息巻いていたから、丁寧にお断りを申し入れた。
そしたら案の定、『サスケ君に料理の腕を披露するチャンスだったのにィっ』と地団駄を踏んで悔しがっていた。




(誕生日、か……)


常に死を背後に感じながら、27年間生き長らえてきた。


死ぬのは怖くなかった。
仲間達は次々と死んでいったし、ただ死ぬ為に生きるのが人の定めだと思っていた。

師の最期を見届けてからは、自分も此の世から開放されたいという思いが更に強くなった。
ただ父の様に自ら死を選ぶのだけは御免だったから、早く誰かが殺してくれないものかと考えたりもした。

命の重さなど紙切れよりも軽くて、何の執着も無い。
そんな時代だったし、何より俺は弱かった。






――だけど、今は違う。

あの人と出逢って、心を通わせる様になって。
彼の笑顔や温もりが、自分が生きているという事を実感させてくれた。


生き延びる力が無くては、大切な者を護る事が出来ない。

護るモノが在るからこそ、本当に強くなれる。


そんな当たり前の事が、この歳になってやっと理解出来た様な気がする。



かつては媚を売るようにこの日を祝いたがる周りが鬱陶しくて敢えて任務を入れていた自分が、こうして自ら里に居る。
師の忘れ形見であるナルトを含め、自分の部下達に誕生日を祝って貰う日が来るなんて考えもしなかったけれど、なんだかそれも悪くない気分だ。


歳を取ったせいなのか、人間丸くなったのか。


夜になるのを待ち遠しく思っている自分に、木の上で独り自嘲の笑みを漏らした。






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