以下の質問内容について「ルール」に反していると思われる部分を選んで下さい。
ご連絡いただいた内容が、弊社以外の第三者に伝わることはありません。
Re:短編小説
湖
[ID:kypikumin]
自分の家から、徒歩十分ほど。そこに、あの湖はある。
しゃり、と、自分の草履が地面の雑草を踏む音だが聞こえる。
「ふぅ…」
湖のほとりまで降りると、異様な蒸し暑さも少しは和らいだように感じた。
墨を流したような漆黒に染まった夜空には、金色の満月がポッカリ浮かんでいて、
『瑠枝っ!』
あまりにも何も無いここは、彼女との記憶を、
『次、リンゴあめ食べたい!』
自らの頭に、
おもいだされて、
「蘭…」
つう、と涙が冷たく頬を伝ったのが分かった。
彼女は、何も悪くなかった、
死ぬことなんて、なかった、
あの満月の色と同じ、金色の瞳で、自分を見つめていて欲しかった。
まだ、覚えてる。
もう、十年以上前の事なのに。
不治の病に倒れた蘭は、どうしようもない母親のせいで、ろくに治療も受けないまま死んでしまった。
にくかった
にくかった
にくかった
ただただ、蘭が死んだのは、あの母親のせいだと、
だから、刀を振った。
覚えている。飛んだ血が、右頬に飛び散った事。覚えている。人の肉を、鋭利な刃物が切り裂く感覚。
この忌まわしい体全身が、"あの日"をしっかりと刻み込んでいるのだ。
「瑠枝〜?」
遠くから、姉の呼ぶ声が聞こえる。
あの人がいなくても、立ち上がらなくては、いけない。
あの人のいない毎日に、意味を見出さなくては、いけない。
前に、行かなくては
たとえ生き血で汚れていたとしても、
「あぁ!もう瑠枝ったらやっぱりここにいたんだ!」
こうやって、自分の存在に気付いてくれる人がいるのだから―
「はいはい、今行くよ」
瑠枝は、湖に付けていた足をあげ、来た道を歩いて帰っていった。
まだ、瑠枝が湖にいた証が、水面に波紋となって揺れていた。
end
戻る