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Re:短編小説
キコ
[ID:642424]
私の目が視えなくなり始めたのは、十歳の時だった。
物が霞んで見えなくなったり、視界が狭くなったり、ゆっくりと目が視えなくなり始めたのだ。
先ずは右目が蝕まれ、十五歳で完全に見えなくなった。
次いで左目も蝕まれて、今は前の半分の視力だ。
何時か訪れるその日に怯える毎日の中で、私はあなたに出逢えた。
「だから、そんな顔をしないで?」
私は彼に向って微笑む。
彼は痛みを堪える様な辛そうな顔で、私を見つめていた。
それもそうだろうな。
いきなり治療の手立てのない病気の話をされて、しかもその相手が結婚を申し込んだ相手では。
彼は何かを言いかけて口を開くも、言葉が見つからず再び口を閉じた。
「今まで黙っていてごめんなさい。」
彼に非は無いのだ。
彼が握り締めている手にそっと触れた。
「あなたが気に病む事じゃないの。私が・・・・私が悪いの。」
「お前・・・・。」
私は一生懸命笑って見せた。
「わかってたのよ、本当は。こんな私は、あなたには相応しくないって。でも、あなたの優しさが嬉しくて、離れたくなかったの。」
「何を言って・・・。」
「別れましょう。」
彼の言葉を遮って、私は言った。痛む胸に気付かない振りをして・・・。
彼は呆然と私を見ている。
だが直ぐに、その瞳に哀しみを浮かべた。
どうしてもっと早く、こうしなかったのだろう。
大切な人にこんな顔をさせるくらいなら、自分一人が傷ついた方がどんなに楽だったか。
「あなたは、沢山の未来があるもの。」
暗闇に生きる事になる私とは違う。彼は、これから未来に向かって輝く道を歩くのだ。
その邪魔になるのは、絶対に嫌である。
私はきっと、あなたの想い出を抱えて生きるのだろう。
だから、あなたが私を忘れても平気。
「元気で頑張って。あなたが幸せになるのを・・・・。」
「ふざけるな!!!」
彼はいきなり私に怒鳴った。
膝の上で握りしめている拳が震えているのは、怒りか、それとも哀しみのせいか。
私は何も言えず、そのまま彼を見ていた。
「なんだよ、別れるって!!お前の目が見えなくなるから、だから俺がお前を捨てると思ったのか?!なんでだよ・・・なんで、そう思うんだよ!!」
彼がこんな風に怒鳴るのは、あの時以来だ。
「俺は・・・俺は絶対にお前を手放さないからな!」
ガタンという音と共に、視界が黒一色になった。
椅子を蹴倒して抱きしめてきた彼の腕に抱かれたまま、私は固まった。耳に届いた彼の声は、震えて涙に濡れていた。
目の視えない私と、彼のお話。機会があれば続きを書きたいです。
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