RED−MOON
□Act.1
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▽ Prologue
深い紫色の闇が、空を覆っていた。
浮かぶ満月はどことなく赤い。
冴え冴えとした光の降り注ぐその真下。無機質なコンクリートで作られたビルの屋上に、彼はいた。
一歩でも踏み外せば落ちてしまいそうな足場で、ただ月を見上げていた。強風が頬を叩き、羽織ったコートが翻る。けれど、彼の瞳にはどんな感情も浮かんではいなかった。
「またか。」
囁くように声をこぼして、彼は息を吐いた。そうしてゆっくりと月から視線を外す。その瞳には、先ほどには無かった、呆れにも似た感情が映っている。
ふと、足を踏み出した。まるでそれが、当たり前だというように。けれどその先に道は無い。
彼の体は重力に抗う術もなく。ビルの谷間の闇へ呑まれていった。
その刹那。赤い月が照らし出したのは、彼の凄絶な笑みだった。
ギイィィ−−。
まるで彼を追いかけるように、獣のような咆哮がこだましていた。