剣花伝
□第一章 咲き初めに
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時は平安。
空の藍色が深く、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)していた、夜の闇が濃かった時代。
京から遠く離れ海と山に囲まれたその地に、一人の美しい姫がいた。
艶(つや)やかな黒髪に、花びらの様に愛らしい唇。鈴の様な声で歌を紡ぎ、華奢(きゃしゃ)な指で琴をつま弾く。天女の如き彼女に誰もが魅了されたが、その誰もが彼女の笑った姿を見たことが無かった。
否。 怒った姿も、泣いた姿でさえ一人として見た者はいない。
そして、人ならざる者を見る事ができる姫を、人々は皆「鬼姫(おにひめ)」と呼んでいた。