月下に嗤う

□月下に嗤う
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 人間には決して手が届かない、遥かな高みに下がった巨大なシャンデリアが、その煌びやかなホールを照らしだしていた。

 真っ赤な絨毯が引かれ、壁の彫刻から絵画、調度品に至るまで眩しい程に光を反射している。その奥には、無駄に立派な椅子が、これまた無駄に広い階段の先にあった。

 まるで、玉座だと言いたいように見える。

「ぐぬぬ。いつ見てもなんて嫌みな部屋な事かっ。」

 じきに50へ届くであろう男は、皺のではじめた顔を歪めた。数え切れないほどこの場所に来たが、いつ見ても美しい城であった。不覚な事だが。

「ウィリアム隊長。吸血鬼セランはいったいどこにいるのでしょうか?」

 ウィリアムはこの間入ったばかりの若い兵に視線を向ける。記憶によれば、彼は今夜が初めての出兵だったはずだ。

「ふんっ。いつもの通りならば、じきに向こうからやってくるだろう。」

 憮然と言って、ウィリアムは腕を組む。腰に挿した剣が小さな音を立てた。


 この世界の夜は、昏い。

 それはただ陽が落ちただけではない。

 夜になると、世界のいたる所に人ならざるモノが溢れ出てくるからだ。

 吸血鬼から始まり、狼男に夢魔。姿形は違えども、一貫して人を襲うそれらを、人々は畏怖を込めて呼ぶ。

 闇の眷族、と。

 そして、そんなやつらから人々を守る為に作られたのが、今この城のホールにいる男達、十字騎士団だ。

 彼らは元はただの聖職者だった。

 聖職者とは、神を信仰し不浄を許さない者達の事を言う。人々も信仰は篤いが、それ以上に、神に仕える事を彼らは誓っている。

 全員が真っ白な団服を身に纏い、首からは聖なる十字架を下げている。武器の形は人によって違うが、構成している物はすべて純銀。吸血鬼だけでなく、闇の眷族達を滅ぼすのに一番有効な物質だ。

 そして、彼らには普通の人間には使えない力が使えた。

 聖力と呼ばれるその力は、闇の眷族を滅ぼす事が出来る唯一の力だ。
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