それから月日は一気に流れ、6月を迎える。
季節は一気に夏の訪れを感じさせるように、日差しは強く照り返し、全ての熱を上げていく。
それから誠凛高校バスケットボール部はインターハイ予選を順調に勝ち進み、決勝では恵梨の彼氏でもある緑間真太郎率いる秀徳高校を下し、決勝リーグに向けてコマを進めたのである。
設立してまだ間もない、誠凛高校のバスケットボール部の勝ち進んでいくその様はまさにダークホースと呼ばれるそのもので、中心にいる彼らもまた自分たちの成長や勝利を嬉々として受け入れていた。
バスケットボール部のマネージャーやトレーナーとなった彼女たちも自分たちの部活の勝利は素直に喜び、また今後の勝利のためにも尚も全力を尽くしている状態だ。
一方、試合に負けた緑間はその悔しさなどの感情を見せることはしなかったものの、何か感じるものはあったようで、恵梨はそんな緑間の変化をどこか嬉しそうにも見守っていた。

決勝リーグの試合も近づくそんなある日。
誠凛高校バスケットボール部の面々は、監督である相田リコの実家でもある、相田スポーツジムに集まり、プールでの練習を行っていた。
水の中での練習は水圧などの影響もあり、なかなかハードで、部員たちはいつもとは違う練習にそれぞれ声をあげていた。

「ほらー、頑張ってー!」
「由希奈、今日は一段と声出てるね。」
「テクニカルコーチはプール練じゃすることないからね。」
「穂波はでも、すっごく嬉しそうにプール入ってるね。」

プールサイドから大きな声をあげる由希奈に対し、それぞれタオルやドリンク等の用意を揃えて待っているマネージャー陣、美華、恵梨、菜々は皆の様子を一望している。
ちなみに穂波は自分の得意分野の一つでもある、水泳が関わるだろう今日の練習に目を輝かせて、参加している。
プールの中で楽しそうに練習を進めようとしている彼女は何とも無邪気だ。

「はい、じゃあ1分休憩。」
「きっつー、プール練」
「てか1分って短くね?」
「黒子ー!寝んな!てか浮くなぁ!」
「てっちゃーーーーん!」

思わずつっこむ恵梨のことはさておいて、同じくプールサイドに立つ監督の相田と助監督の優姫はそこで手元の書類を確認するように肩を寄せる。
練習メニューの確認をしているのだろう。

息を切らせる部員たち。(一部を除く)
それを励ますマネージャー陣。(こちらも一人を除く)
プールで楽しそうに笑う穂波とプールサイドで水をかけようと必死の由希奈。
それから練習を再開した彼らのもとに事は起こる。

プールサイドにボン・キュ・ボン体系の美少女が現れたからだ。
プールに入っていた部員たちは一気に吹き出し、沈みかける。
少女が一つ笑うと、プールに入っていた穂波と黒子が同時に声を出す。

「さっちゃん!」
「桃井さん。」

相田に正体を問われた彼女は少し悩んだ素振りを見せてから笑顔で一言答える。

「テツくんの彼女です。決勝リーグまで待てなくて来ちゃいました。」
「テツくん?」
「黒子テツヤくん。」
「「「「………えーーーーー!?」」」」

一斉に悲鳴を上げるメンバーたち。

「くっ黒子!おまっ!二股!?」
「違います。桃井さんは中学時代、マネージャーだった人です。彼女は美華だけです。」
「てっちゃん!」

黒子のはっきりとした物言いに、美華は思わずところ構わず、黒子に飛びつく。
そしてそれから睨むように桃井を見つめる。
桃井はそれからも尚、自分と黒子の出会いについて等の馴れ初めを夢見る乙女モード全開で話し続ける。
その様を何とも言えぬ視線で見つめる由希奈たち。
尚もにらみ続け、黒子に抱き着いたままの美華。
そして、プールから上がって、彼女の隣に立って微笑む穂波。
部員たちも含めて、一気にその場には練習という空気がなくなってしまっていた。
それから桃井は彼女の特性ともいえるデータ力を生かし、部員たちとの会話を進め、それからしばらくして、ようやく黒子と彼女たちだけを前にして本題に入る。


「青峰くんの…テツくんと一緒にプレーしたときの方が…好きだったんだけどなぁ。」
「……大ちゃん、どうかしたの?」
「…穂波……。」
「…相変わらず…なの?」
「…うん……。」

それから桃井は自分の思いを語る。
青峰が孤立していること、負ければ変わってくれると信じていたこと。
桃井の表情と様子から彼女の苦悩を感じ取る。
そんな桃井の思いを聞いて、黒子は立ち上がり、そしてはっきりと言う。

「…約束します。青峰くんに勝つと。」
「……うん。」
「………てっちゃんかっこいいー!」

美華は再び思い切り黒子に飛びつく。

「…にしても、青峰は高校生になってもそれなのね。」
「まぁ…青峰くん、強かったから仕方ないような気もするんだけどね。」
「言うて、このままじゃあかんのも確かやろ?今からアメリカに行くってなら話は別やけど。」
「…仕方ない!大ちゃんに会いにいこう!」
「「「「え?」」」」」

穂波は突然、何を思ったのかと言わんばかりににっこりと笑うと、皆を引きつれて更衣室へと向かっていく。

「さっちゃん、あたしにはあんまり大したことできないかもしれないけど…。でもさっちゃんがすごく心配してるってことだけはちゃんと、大ちゃんにわかってもらうから!」
「穂波…」

穂波はにっこりと笑うと他の5人を半ば引きずるようにその場を去って行った。

「……西村さんは、なんだかんだ青峰くんのことも桃井さんのことも一番よくわかっていますからね。さすがです。」
「ね。……これで、少しは青峰くんも考えてくれればいいんだけど…。」

桃井は一言、少し苦しげに洩らした。



「あっいた。」
「…てかこんなすぐ近くで会えるってどんだけだ。」

着替えを済ませて少し外を歩く。
近くに見かけたストリートのバスケットコートを見れば、そこには探し求めていた人物がいた。

「…あれ、大我もいるやん。大我ー。」
「ほんとだ!火神っちー!」
「あん?って、優姫…に、きっ北原!」
「大ちゃんー!」
「…あーん…何だ、お前ら。久しぶりじゃねェか。」
「うっわ、コイツ、何も変わってねェ!」

コート内で既に汗だくになっている火神とその前で変わらずボールをバウンドさせ続ける男―青峰大輝にそれぞれ声をかける。
火神は優姫に視線を向けてからその隣に並ぶ由希奈を見て、一気に顔を赤く染め上げる。
落ち着きのなくなった彼の様子はどこか不自然だ。
一方の青峰は変わらずダルそうな視線を彼女たち全員に投げかける。
その傍らで変わらず跳ね続けるボールの音がそこら一体に広がっている。

「大ちゃん、さっきさっちゃんに会ったよ!さっちゃん、すっごい心配してたんだから!」
「あー、さつきがどうしたって?」
「さっちゃん、大ちゃんのこと、すごく心配してるんだよ!」
「いや、だから、何を心配されてんだって聞いてんだ。」
「………………何だろ?」

穂波が首を傾げて答えた途端、青峰を除くその場にいた全員が思わずずっこける。
青峰は一つため息を吐くとボールを腕に抱え込んで、自分の頭を掻く。

「ったく……お前は…」
「ごめんー」

穂波は苦笑いではあるもののはにかむように笑う。
その穂波を見て、青峰は頬を少し赤くして視線を逸らす。

「…んまぁさつきのことだ。どうせいつものことだろ。穂波もいちいち気にすんなよ。」
「でも、あたしも大ちゃんのことは気になってるよ。」
「はっ」
「無茶とかしないかなぁとか。バスケばっかしてて頭おかしくならないかなぁとか。」

「おい、さり気に穂波、酷いこと言ってるぞ。」
「許したって。悪気があるわけちゃうねん。あの子は。」

穂波は何も気にした様子もなく続けるが、外野に回っている恵梨はその発言のえげつなさについツッコミを入れる。
それをフォローする優姫ではあるが、彼女の表情は決して明るくない。

「うるせぇ。んなこと、いちいち気にしてんな。」
「大ちゃん、ひどいー」

それからも穂波と青峰は尚も他愛もないような言い合いを繰り返す。
突き返すような物言いを続ける青峰ではあるが、その表情は他の人に向けるものよりもずっと柔らかく、どこか楽しそうである。
穂波はそんな青峰の様子には一切気付いていないようであるが、それでも楽しそうに会話を続けている。

「もー!青峰っちってば、照れ屋さーん!」
「なんやかんや言うけど、青峰くん、幼馴染だからだって言うけど、穂波には言い方とか諸々優しいよね。」
「ツンデレだからな。」
「長っい片想い中やしな。」
「青峰くん、ファイトー!あたしとてっちゃんは秘かに応援してるよ!」

一方でそれを外から見守るように彼女たちはそれぞれに思い思いの言葉を告げていく。
もちろん、この間、火神は何が何だかわからない様子で優姫の隣に立ち尽くしている。
幼馴染である青峰と桃井、そして穂波の3人の関係は彼女たち6人の関係ともまた違う形を作っている。
特に、青峰と穂波は青峰自身の恋愛感情が長く関わっているからか、3人の関係の中では非常に特殊的な、特徴的な面を見せていると言えるだろう。

「青峰の片想いや如何に。」

「あーもう、うっせぇーな。」
「大ちゃん!もー!そうやってすぐにはぐらかすー!」
「わーかった。じゃあここからあのゴールにシュート入ったら、もう黙れ。」
「えっ」

そう告げると青峰はボールを一気に投げ打つ。
するとボールは吸い込まれるようにゴールに入っていく。

「はい、きーまった。穂波ー、今日はもう黙っとけよ。」
「すごい………!…ってそうじゃなくて、大ちゃん!」
「あーもう。どうせ明日も明後日も、この先もずーっとお前に横で色々言われ続けんだ。今日はこれでいいだろ。」
「大ちゃん、そういう問題じゃないでしょ!それに一生は言い続けたくない!」

顔を赤くしつつもボールを取りに行こうとする青峰に穂波は尚も強い口調で続ける。
彼の顔が赤いことにも気付かぬままに。




必然的ないつまでも


(さりげないプロポーズ発言も撃沈したね。)(どんまい!青峰っち!)


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