□線香花火
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「じゃぁ、また明日。学校で。」

「…じゃぁ、な。」

藤内が家に入って行くのを見送ってから、どう自分が家まで帰って来たのか覚えてないが、気がつけばベッドの上で呆っとしていた。

不意に花火の時に消化しきれていなかった線香花火を思い出してベッドから飛び起き、この間買ったまだ新しいビニール袋から線香花火を引っ張り出してからベランダに出て火をつける。

そこは蝉じゃない虫の音が聞こえて、ひんやりとした風が頬を撫でて、ほんのすこし秋のにおいがした。

ぱちぱち、ぱぱぱ…

線香花火は小さく音を立てながら目の前に光を放つ。


…明日の朝になれば、俺らはまた友達に戻るんだ。何も無かったように学校に行って馬鹿やって…お前のこと友達だよって…。

線香花火を一本付ける度にひとつ夏の想い出を思い返してみる、遊園地の観覧車に乗って、てっぺんでキスとかってベタな事したら、恥ずかしそうに笑ってたこと、水族館から海に行って、おいかけっこしたけど本気で走ったら俺が普通に勝っちゃって拗ねられたこと、花火の時にみんなで打ち上げやってたときに、一人でやってた後片付けを手伝ったらびっくりされた事…ぱぱぱ…ぽたり。ぱぱぱぱ…ぽたり。愛しい日々が、膨れて、震えて、落ちていく。

…まるで刹那の夢みたいに。

所詮は遊びの恋なのに、こんなにも本気になったって言い聞かせてた。
この夏限りの愛だっていうのも分かってた。


でも…本当はずっと好きだったんだ。
自分に嘘をつくのがこんなにしんどい事だなんて思ってなかった。

なんで言えないんだろう…こんな、簡単な言葉が、言えそうで言えない。伝わらない。

この夏、余計藤内を好きだって気持ちが膨れ上がって、今にもこよりから落ちそうになってるのに気付かないフリをしていた。

だって、向こうが好きなのは俺じゃない。

「…っぐ…」

言葉の代わりに嗚咽が漏れた、視界が滲んで明るいところと暗い所の境界線が曖昧になる。


ぽたり。

最後の火玉が落ちてしまっても、線香花火は未だ恋煩いの侭で−−−−-----



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