□線香花火
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そもそも藤内には何年も片思いしていた人が居て、昨日その人に恋人が出来たと聞いたのを思い出す、その話は学校中の噂になっていたから俺も知っていて、その人の相手はすごく綺麗な高等部の先輩だった。

一方おれはずっと藤内の事が好きで、でも格好いい先輩に恋しててちょっとの事に一喜一憂してる藤内を見たらとてもじゃないけどそんな事は言えなくて、何度か付き合ってと言って来た後輩とかを藤内だと思って抱いた事もあって。

…まぁ、結局「先輩は違う人の事ばかり見てる」と言ってフラれてばかりだったけど、もう来るもの拒まず去る者追わずな状態になってた事と、近くに遊び人代表のような作兵衛が居た事も相俟っていつの間にか俺にも遊び人というレッテルが貼り付いていた。

藤内は辛いことがあるとひたすら自分を痛めつける傾向があったからこんな状態の時に俺を頼ってくれたことは本当にうれしかったけれど…きっと、痛めつけたかったから俺を選んだんだとすぐに理解した。

浮気症の奴と付き合えば自分が辛い思いをする事はわかってる、でも、人に迷惑は掛けたくないから、一番近くに居て迷惑がらないと思う…言葉は悪いかもしれないけれど、一番都合の良かった俺を選んだんだ。

「…俺なんかでよければ?」

きっとこの気持ちを言えば藤内は自分を甘やかされると思って逃げてしまうから、絶対隠さなきゃいけない、藤内を他の奴なんかに渡したくない。
そう思えば普段何とも思っていない奴らから告白を受ける時のような台詞と笑顔が勝手に出て来た。

"遊びの恋"そう俺の中で銘打たれたこの擬似恋愛は一か月、夏休みが明けるまでという条件付きで幕を開け、

"恋人"が普通するだろうと思われる事を一週目に全部予定を立てて、義務的に遂行、の繰り返し。その間にも自分が他の所にも目を向けるアピールを忘れずに行った。
情交の時も、あくまで自分は本気じゃないぞと言う雰囲気を醸し出す。(その辺りに関しては場数だけは踏ませてくれた今まで相手してくれていた奴らに感謝しなければと本気で思ったが、流石に最初は余裕が全くなかった。)

デートだって遊園地に行ったり水族館に行ったり数馬や他の奴らと花火しに行ったり。


嘘でも、夢でも、遊びでも。

俺にとっては幸せな日々で。藤内が辛そうな顔をしている時には俺も辛くなったけど、一番近くでこの顔を見れているんだと思ったら、少し幸せになれて。でもそれを口に出せないのはやっぱりちょっと辛くて。

それでもカレンダーの日付は順調にそのスケジュールを消化して、とうとう明日が期限の始業式、という所まで来ていた。

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