□線香花火
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厚みのあるカーテンによって蒸し暑い外界から光が遮断され、クーラーの利いた部屋には濡れた音が絶え間なく響いていた。


「…っぁ、も、無理…っ!!」

「…でも最初に比べて大分慣れたよなぁ…最初食いちぎられるかと思ったけど、今は調度良い感じになってきたし…。」

「うるさ…っんん!!」

喋ってる時にぐちゃ、ぐちゃと淫猥な音を立てて中を掻き回せばすぐに声を籠らせるのが好きだ。

「先輩、って、呼んでもいいよ?」
「誰が…っぁ…は…!」

先輩。固有名詞ですらないその単語に反応して締まりが良くなる。後背位なら顔が見えないからか感度も良くなる。
それが解ってからは最初の何回か以外はずっとその体位だ。

「すき…すきだよ…藤内」
「あっ…ぁ…!!」

達するときに言うようになったこの言葉も、気分を盛り上げる為にしか使われない詭弁。

この言葉に、そっと本心を乗せたとしても、何の意味も持たないから---。



[線香花火]




事の始まりは夏休みが始まる一日前、詰まる所終業式の日だ。
終業式が終わり、外の暑さがマシになるまで、と人気のない図書室で他愛もない会話をしていた時、不意に向かいに座っていた藤内が俯いて重い口調で話しを切り出した。

「あ、のさ…」

「ん?」

「頼みが…あるんだけど。」

「…な、何。」

「一か月でいい…おれと…付き合って…」


一瞬何を言っているのかと理解するのに時間が掛ったが、目の前で震える拳を握りしめ、泣きそうな声でそう言って来る友人を、拒むことができなかった。
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