中編

□Bitter Bitter
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手荒にタイを解かれて、その性急さに少し怯えた。
ベルゼーヴァの吐息が熱い。その熱さにさえも、否応なく掻き乱される。
緊張する必要は、本当は無い。もう処女ではない。何度体を重ねたのかは数える事もできない。それでも最後に愛し合った日さえも片手で足りない年月が過ぎている、緊張は無理のない事ではあるけれど。

シーツを掴む為に逃がした手が搦め捕られる。掴めたのは布じゃなく、骨張った大きな手。
空いていた方の手で士官服の前を広げられて、もう逃げられないのだと体が悟る。心の覚悟は決まっていたものの、体は男のものだからか組み敷かれる事を拒んでいるようだ。
沈んだ体が居場所を探す。もっと深くに沈みたくて、実際緊張で胸が苦しくて寝台に体が押し付けられているようで。

「ベル、っ、……くるし、よ」
「我慢しろ……あれから何年経っている?優しく努めるだけで精一杯だ」

耳元で囁かれた言葉に、温度以上の熱を感じる。
高鳴る鼓動を抑えられない。胸に這う指が鼓動を確かめるようにゆったりと撫でていった。

「でも、……や、この体は、ハジメテ……なんだからなっ……!!」
「そうでなければ私が許さない。……君の体に教え込むのは私の仕事だ。政務にしろ剣技にしろ、………こういった事にしろ」
「っ、あ、……うあ……!!」

スラックスを開かされ、何かを優しい手つきで引っ張り出される感覚。体には覚えがないものの、記憶ではこの感覚を違う形で覚えてる。
そう、違う形で。引っ張り出される、じゃなくて。あの頃は、引き出す方だった。
排泄欲が無い訳じゃない。最初はマフェイドルも恐々触れていた。けれど今、そんな時のように萎れた形じゃなくて、既に情交を期待する雄の形になっている。
軽く先端を指の腹で突かれる、それだけでマフェイドルの眉間に皺が寄った。

「腰を上げろ、汚れるからな。上げるだけでいい、全て脱がすぞ」
「……ベルゼーヴァは脱いでないじゃないか……」
「私の事を気にするな。……乱れるのは私ではない」

慣れたような手つきで、寝台の上を転がされるような感覚を覚えながら全てを脱がされる。上も下も、着脱が難しいものではない。
その最中でさえも探るような動きで、その怒張に指を這わせるベルゼーヴァ。慣れているような気がするのは、それが同じものを持つ相手だからか。
怒張の出口、張り出した傘、その内側、筋や血管。あらゆる部分を撫でられ弄ばれ、かと思えば勿体つけたように手を離され。
女だった体には無い部分だ。それだけに、違う快楽を味わう事になって甘い溜息が止まらない。我慢できないものではないが、嬌声混じりのものさえ溢れていく。
与えてくれるのは、今も昔も変わらない最愛の人。女としての快楽は完全に仕込まれた。男としての快楽は、ちょうど今から。

「ベルゼーヴァっ……」
「……何だ?」

男色の趣味が無い事は知っている。だからこれは彼にとって『無理』の一つ。
その無理を通してくれるのは、相手がマフェイドルだからに他ならない。
全部脱がされた、一糸纏わぬ体。この体はどんな風にその瞳に映っている?

「……すごく、イ……イけど……、そんな場所、わかるなんて。自分で、シたり、してるの、か……?」
「…………。」

組み敷かれる緊張を解す為に口にした冗談だが、ベルゼーヴァの表情が明らかに不満顔になる。
ぎり、と出口の小さな穴に小指を宛がわれる。力こそ弱いものの、爪を立てて無理矢理割り入ろうとせんばかりの痛み。

「っぎ、い、痛いっ!!」
「馬鹿を言うな、慎みを持て。下の話に口が軽いなど品位が疑われる」

人間としての急所をいいようにされるのは、相手が信頼している相手だからこそ許せる行為。
小指が離れ、焦らすような動きで上下に扱かれる。もう痛みは無いが、やっぱり変な感覚。

「悪いな品位なくて。品位だなんだって……。慎ましやかな女の子なんて、少なくとも政庁には殆どいないじゃないか」
「そうは言っていない。……あまり説明させるな」

自分の感じている様をまざまざと見たくはないものの、その甘い手つきがどうしても気になった。
顔を恐る恐る上げると、あまり見たくない自分の器官と、それを嬲るように手で弄ぶベルゼーヴァの姿がある。
両手で扱き、伝わせ、弄りまわす。大きな手がマフェイドルの興奮をいいように翻弄するように。

「っ、あ、……ベルっ」

その光景だけで、びくりと腰が震えた。
異様に奇妙な光景、でも、とても淫靡で背徳的。
そのいやらしさが急に怖くなって両手を伸ばす。行為になった今更、ベルゼーヴァを禁忌の道に突き落とす事が怖くなっていた。
伸ばした手の意味に気付いたのか、ベルゼーヴァが腕を掴む。両方を捻り上げられ、行為も中途半端なままに無理矢理頭の上で組まれた。
掴まれた掌が濡れたような感覚で、自分がどれだけ感じているかを暗に言われているようで。

「っ、ベルゼーヴァ……!!」

両腕を手首の位置でマフェイドル自身のタイで縛られ、マフェイドルが苦痛の声をあげる。
動かせない事はないが、そこまで全力で拒絶したい訳ではなかった。受け入れたいのに、それが怖かった。

「共に墜ちる、と言ったのは君だ。今更逃れようなど、都合が良すぎる」

清廉な人間に、背徳を強要した罪。
その罪は行為と罪悪感になって返ってくる。
拘束は、マフェイドルがそれ以上動かないだけ意味を成さない。けれど背徳的な興奮を齎した。
再開された行為と、初めて感じる複雑な感覚。

――――ぞくり。

「っあ、」

背筋と腰から駆け上がるなにか。

「っ、く、や、……ベル、ゼーヴァ……ぁ!」

その『なにか』が競り上がる。
競り上がったものは、まるで弾けるような勢いで。声が力無く名前を呼ぶのとほぼ同時、マフェイドルの腰が跳ねる。

「――――っ、ぁ、……は、ぅ」

気怠さと、言いようのない解放感。脈打つような熱い肉茎が吐き出した白濁は、ベルゼーヴァの手で受け止められていた。

「……悦かった、か?」

見せびらかすように、白濁まみれの指をわざとマフェイドルの目の前に出す。
顔を赤くして返事もせずに視線を逸らすマフェイドルだが、出したばかりだというのに怒張はそこまで萎えていなかった。
ベルゼーヴァの指が引っ込む。その指が、今度は違う場所に位置付いた。

「っ、ひ」

前触れもなく、ただその一箇所のみを狙うように。
位置は後ろに近い。肉茎より更にシーツ側、何も知らない小さな蕾。
 
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