Fgo

□comedy or serious?
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カルデアでは映画ブームが巻き起こっていた。
それは『見る側』ではなく『撮る側』で。
先日の微小特異点で起きた騒動は、その騒動に参加していない面々にも欲求を植え付けたらしい。―――つまり『創作する、という行動による高揚と達成感』を皆が求めだしたのだ。

ダ・ヴィンチちゃんは撮影機材を増やし、件の映画撮影の面々はそれぞれに英霊を引き連れて脚本作りと演技指導と撮影に勤しんで、しまいには

「試写会をして、どの作品が一番かを決めよう」

と言い出したのは誰だったか。
やる気のない英霊、やる気の漲る英霊、裏方に徹するからと逃げた英霊。なんだかんだで、殆どのサーヴァントがあの映画に参加したかったんだろうなぁ、と未那は思った。

「勿論参加するわよねぇ、花菜?」

ジャンヌオルタの邪悪な笑顔を受けて、花菜も映画撮影に参加せざるを得なくなった。
あーあ、と溜息を吐く間も無く―――その笑顔は次は未那にも向いた。



「英霊って好奇心旺盛ね……」

今のところ、映画大会参加表明をしているサーヴァントの名簿を見ながら未那が溜め息を吐いた。八人前後を一組として、既に表明が四組分出来上がっている。
その組の中に一人ずつ、件の映画の演者の名前があった。
これは後から追加されたルールで、『鳴鳳館殺人事件に参加した者は一組に一人のみ』。役者経験で不公平になるからだそうだ。

「うっわ、ジャンヌオルタの所って若草物語するんだ」
「若草……って、四姉妹の話ですよね」

花菜も名簿を横から見ている。

「ジャンヌ、ジャンヌオルタ、ジャンヌオルタリリィ、ラクシュ……あれ?ジャンヌ達にラクシュミー混ざるんだ?」
「……………ああ」

何かを察したらしい花菜は目を逸らしながら小さく嘆息した。それが未那には何故かは解らなかったので、今は触れずに流しておく。

「アーラシュの所は創作脚本!間に合うのかな。あと個人的にその脚本一冊欲しい」
「本当、未那さんは本好きですね」
「そうね、でも何でも好きな訳じゃないのよ。知人、それも英霊が書いたものとなれば話は違うでしょ」

やいのやいのと言っていると、側にいた赤髪の男の口からも溜め息が漏れた。

「……ですがまさか」

ポロロン、悲しみを帯びた弦の音がする。円卓の騎士の一人、トリスタンだ。

「配役が『ああ』なってしまうとは………」

花菜と未那が顔を見合わせる。
トリスタンは『異世界のアーサー王』こと、アーサー・ペンドラゴンをキャストに招いた。そうなるとそのマスターである花菜も自然とキャスト入り。
それからはその三人で円卓勢に声を掛けたのだが―――。

ロミオ:アーサー
ジュリエット:花菜
ロレンス神父:トリスタン

ティボルト:モードレッド
マキューシオ:ランスロット
ペンヴォーリオ:スパルタクス

異物が混じったそのキャスティングに、それを知った未那が思わず『ん?』となったのは昨日のことか。
ペンヴォーリオといえば、ロミオの親友の一人だ。ティボルトもマキューシオもロミオもジュリエットも死ぬ物語の中で、生き残る側の者。

「ここ、円卓の騎士じゃなくて何でスパさん?」

そう聞いたら

「もう他の所が勧誘済みでした」

と言われた。
ペンヴォーリオ役がガウェインやベディヴィエールだったとしたら、それだけで他の映画など取るに足らないものになるほどの出来になっただっただろうに。若草物語にはセイバーとキャスターのジル・ド・レェ二人が混ざるそうだし。明け透けに言えば地獄絵図。

「未那さんの所は……まだ未定なんですね」
「ジルさんが若草物語に行ったからね……。面子も集まらないし、このままキャスト不足でお流れかな」

キャスト不足もそうだが脚本も決まっていない。
『そういうのは勘弁しろ』と、どこかのドルイドは言うし。
『濡れ場有りなら考える』と、どこかのランサーは言うし。
『俺がんな事する訳ねぇ』と、若い顔のランサーは言うし。
『俺がそんな事をするように見えるのか』と、どこかの狂王はマジ顔で言うし。
実際困っているのだ。このままでは花菜も未那も、ジャンヌオルタの大火力攻撃に追いかけ回されかねない。
脚本も、大ファンというか崇拝しているシェイクスピアその人に土下座までしに行ったのに笑顔で断られた未那である。

「でも、未那さんがロミオとジュリエットを演じないのは意外でした」
「そう?」

花菜達がロミオとジュリエットを演目にする、と聞いたときの未那の反応は、嫉妬でも不満でもなく歓喜だった。シェイクスピアを崇め奉る未那のその喜びようは、その場を三周走り回って絶叫するほどで。

「私が演じるには、ジュリエットは瑞々しいの」
「……瑞々しい………?」
「……まー、ちょっと端折るけど……好きな台詞にね、『その名前をお捨てになって』『言葉の通りに受け取りましょう。そしてこうお呼び下さい―――『恋人』と』ってあるのよね」

諳じるのに若干の感情が込められていた、その台詞は二人が出逢ってからの話だ。
夜にジュリエットの元に逢いに行ったロミオが、偶然ジュリエットの独白を聞いてしまう。『おおロミオ、どうして貴方はロミオなの?』があまりにも有名なシーンの中の台詞。

「私だったら、好きな人に名前捨てろなんて言えない。……それに、どっかの誰かは冗談でも捨ててくれそうにない」

『どっかの誰か』。花菜にも一瞬で顔が思い浮かぶ。ドルイドの格好をした青いキャスターだ。『誓い』と『義理』を重んじる彼の口は、今でも古い知己の名前を出すほどだ。彼を彼として形作るものを、きっと彼は捨てられないし、捨てたらそれは『彼』ではなくなる気がして。

「でも、花菜の所だったら……安心させるための優しい嘘として、だったとしても、名前捨てるって本当に言ってくれそうじゃない?」
「………!!」
「あ、勿論捨てられないのは解ってるからね!見くびってる訳じゃないからね!!」

『花菜の所』。それはつまりアーサー・ペンドラゴンのこと。
円卓の騎士を率いる凛々しい王である筈の彼だが、未那にはそう見えているんだろう。花菜の為に、すべてを擲ってでも―――

『ならば、君の言う通りに。そしてこう呼んで欲しい―――恋人、と』

ぼっ。
花菜の顔が一瞬で真っ赤になった。
アーサーの切実な声で、その台詞を投げ掛けられる姿を想像した。いや、これはお芝居だとしてもこれから先絶対にあるシーンなのだ。更に言えば朝チュンシーンもあることを思い出し、花菜がへなへなとその場にへたりこむ。

「か、花菜!!?」
「……未那さぁん……」

それは撮影され、編集され、試写会で上映され、皆の記憶にしっかり残る。そしてその後で、きっと皆からがっつり冷やかされるのだ。

「―――ギャグにしましょう!!」
「―――へ??」

想像するだけで羞恥が振り切った花菜は、トンデモな事を叫んだ。

「『名前を捨てて』ってシーンで、ペンヴォーリオが「名前を捨てることを強制するなど圧政である!」って乱入してくるんです!!」
「ちょ、花菜?」
「それからことあるごとにペンヴォーリオが皆の前に現れて、それから悶着あったりモンタギュー家とキャピュレット家が手を組んでペンヴォーリオを」
「ちょっと、それペンヴォーリオじゃなくてスパさんよね!?スパさんご本人よね!!?」
「最後はロレンス神父がペンヴォーリオに毒瓶を投げつけt」
「花菜、食堂にエミヤ謹製プリンがあるらしいけど」
「た べ ま す ! ! !」

エラーを吐くPCのようにバグった発言を垂れ流していた花菜だが、未那の一言に花菜は食堂目掛けて飛んでいった。
後に残されたのは未那とトリスタン。

「……私は悲しい……」

ポロロン、と張りのないハープの音が鳴る。

「………このままだとあなた方の王がコメディ映画に駆り出されますが、宜しいのですか」

哀愁漂うトリスタンに、思わず必要以上の敬語で問い掛ける未那。

「……私もコメディ映画の要員となるのでしょうか」
「全力で止めてあげたらいいと思います」

普通にロミジュリしたら絶対ロマンティックなのは確実なのだ。脚本は冗談抜きに長年愛され続けている鉄板、主役は美男美女の本物カップル。
さてクランクアップはどうなる事やら。ハープを鳴らすトリスタンをそっとしておくためにも、花菜が向かった方向を目指して未那も歩き始めた。



続…………?

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