Fgo

□三人め
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今日は立香の召喚に立ち合った。

立香はこのカルデア内に置いてほぼ唯一の戦力。私もマスター適正はあったらしいが、カルデア内ではイレギュラーな立ち位置の為戦力としては除外されている。
だから彼女に召喚権『聖晶石』の大部分を譲り、その度に『呼符』と呼ばれる召喚道具を貰う。この呼符で来たサーヴァントは今のところキャスターのジル・ド・レェのみ。
先日立香の所にセイバーのジル・ド・レェが来てジル・ド・レェ同士が顔合わせをしていた。セイバーの方の顔色が土気色をしていたので大変申し訳なくなった。

立香の召喚はとても豪勢だ。
一気に十を数える程の光が立香の前に現れる。そのうち何体かがサーヴァントなのだが、さて今回はどんな英霊が来るのだろう?
自分のではない召喚でもこの時ばかりは楽しみに胸が弾む思いをしているのだが、キャスターのクー・フーリンはあまり面白くなさそうな顔をしている。一番端で背を壁に凭れさせてるランサーのクー・フーリンもだ。

「ねぇクー・フーリン」
「何だ」
「どうした」
「………ごめん、キャスターの方」

名を呼んだら二人とも反応した。ランサーの方に謝罪を入れる。舌打ちされた。

「今度はどんな英霊が来るのかな」
「さあな。その時によって変わるだろう、呼ぶ前に予想は出来ねぇよ」
「それはそうかも知れないけど―――」

光の柱が立香の前に現れる。

「また、もう召喚した誰かの別の姿だったら笑うしかないよね」
「……勘弁してくれ」

豪華な光の柱は一本ずつ消えては現れを繰り返す。
ああ、礼装。いいなぁ、あの礼装は見たことない。
最初の三本は礼装。そろそろか、キャスターのクー・フーリンと顔を見合わせる。



「………………」
「………………」

現れたのは、青い髪。

「……………うわぁ」

槍持ち。

「…………勘弁してくれやマジで………」

キャスターのクー・フーリンが呻いた。後ろの方ではランサーのクー・フーリンまで凄い顔をしている。
召喚で現れたサーヴァント、数人いるうちの一人はとっても既視感があった。

「………アルスターのクー・フーリン」

既視感バリバリの青年が、そう名乗ると同時に二人くらい頭を抱えた。

「………うわぁ」

その声は自分の口から二回ほど出てきたように思う。
頭を抱えた二人よりも若く、爽やかではあるものの同じように気のいいあんちゃん感が強い。
立香が近寄って何やら話し、若いクー・フーリンがこちらを見る。

「あー……、アンタか、もう一人のマスターってんのは」
「そう。これから宜しくお願いします。……えっと、クー・フーリンでいいのよね?」

横にもクー・フーリン。
後ろにもクー・フーリン。
そして前にもクー・フーリン。

あと一人クー・フーリンが来たら皆纏めて消えないか。大丈夫か。



「新しいあのサーヴァントは若いクー・フーリン、って認識でいいのよね」
「そうみたいだね」

今日は時間が合ったので、昼食は立香と食堂で摂ることにした。
いつも忙しく、そして気を張りつめてる立香だったが、今日は少し余裕があるのか表情も穏やかだ。

「ふふ、キャスターのクー・フーリンが一番歳上に見えるから、年代カタログ見てる感じ」
「十代・二十代・三十代?」
「そうそう、そんな感じ」

今日のお昼はサンドイッチ。三種類の具材から選べたので、一種類ずつ取ってホットミルクと
供する。サーヴァントの面々は食堂で食べたり、サンドイッチという手軽さから、どこか思い思いの場所に持っていったりしているようだった。

「でも、キャスターとランサーとで取り合いしてるのにもう一人クー・フーリン来て大丈夫なの未那」
「そう言われても私が喚んだ訳じゃないもの。……私が好きなのはキャスターのクー・フーリンだけだし」
「ヒュウ」

裏声で立香が茶化す。でも悪い気はしなかった。

「未那」

聞き慣れた声に振り返る。

「う"っ」
「おぉ」

立香さえも感嘆の声を漏らしたが、私は私で声が野太く詰まっていた。
そこにあった景色は、青髪三人の男前が揃ってこちらを見ている、たいへん心臓に悪い麗しい光景だった。
カルデア内には生半可ではない美形がゴロゴロしているが、年代の違う恋人の同一人物三人(矛盾にも程がある)が心の準備も無しに目に飛び込んでくるのは控えめに言って、ヤバい。語彙力も死んでいく。

「召喚後は色々立て込んだからな、改めて挨拶させてる」
「よう嬢ちゃん、うちのマスターと並んでも遜色ねぇな。今日も美人だぜ」

若いクー・フーリンを挟むような形でキャスターとランサーが立っている。ランサーの軽口は相変わらずだが、いい気分しかしない。キャスターがむっとした顔をし、若いクー・フーリンが怪訝そうな顔をしたが、両脇の二人は気を取り直したように若いクー・フーリンを肩で小突いた。

「オラ、挨拶しろ」
「何すんだよ」
「いいから挨拶。早くしろ」

両脇が顔を覗き込みながら真ん中の若いクー・フーリンに物を言う。物凄く理不尽なイビりを受けているように見える。

「………あー、改めて。俺はこいつらの昔の姿、らしい。直接のマスターって訳じゃないが、まぁ同じ屋根の下にいるもの同士宜しく頼む」
「こちらこそ。私はあんまりマスターとしては役に立ててないけど、これから宜しくお願いします」

このクー・フーリンは私よりも年下に見える。流石に英霊とはいえど、生前はこんな時期もあったんだなぁと自然ニコニコしていると

「まぁ」
「てな訳で」

両脇のクー・フーリンが、若いクー・フーリンの肩に手を回す。それは傍目から見ていてもガッチリと力の籠ったもので、若いクー・フーリンの顔が僅かに引き攣り青褪めた。

「「コレには、死んでも手ェ出すなよ」」

両脇が笑っている。笑っているのに目がマジだ。

「………いや、悪ぃが俺の好みじゃねぇし」
「ほう、その発言を未来で後悔するなよ」
「ってかアンタらも『俺』だろうが!!なんで好み変わったんだよ、あんな女―――」
「『あんな』?」

先にキレたのはランサーらしい。

「よし、表出ろや」
「……ランサーのクー・フーリン、外出たら死んじゃうよ」
「っ痛ぇな!引っ張んじゃねぇ!!ちょっ、止めろよっ、どこ行くってんだよ!!」

若いクー・フーリン……これから便宜上若クーとでも言うか。
若クーの首根っこ掴んでランサーが食堂を出る。召喚されたての若クーに、立香の一軍であるランサーの仕置きを耐えられるかは解らない。
キャスターのクー・フーリンは二人を見送った後、私の隣に座ってきた。

「昔の女性の好みは違ったようで、すみませんね。『あんな女』で」
「怒ってんのか?勘弁しろ、昔の俺の言うことだろ」
「怒ってなんかいません。……大丈夫よ、本当に怒ってないから」

怒ってないのは本当だが、若干傷付いてはいる。
解っていた。立香ほどの愛嬌もない、立香のような美人でもない、立香みたいなスタイルもなければ立香並みの胆力もない。
でも改めて言われると辛いものがある。それが愛しい人の『昔の姿』なら尚更に。

「……もう少し色気のある体になりたかったなぁ」

小声でそう漏らすと

「大丈夫だろ、お前はもう俺のなんだから」

耳に届いたそれだけを聞くと、胸が高鳴る言葉に聞こえるも

「じっくり育ててやるから安心しろ」

そう言われて胸を揉まれる。
生憎ここは食堂で、おまけに皆がこっちを見ていた。

「クー・フーリン。ちょっと表出ようか」
「あ?今さっきお前が外出たら死ぬって―――」
「未那、手伝うよ。ゲオルギウスとドレイク連れていく」
「嬢ちゃんは来んな!止めてくれ!!」

その後、マスター二人がかり(+サーヴァント)でセクハラオヤジの英霊は成敗され、カルデア内には『公然セクハラ禁止令』が出されることとなった。





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