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□資質を問う、或いは百合の花
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由々しき事態だ、と確信した。

未那が契約しているサーヴァントは二騎、それも両方キャスター。
彼等はそれなりの知名度を誇り、元々の強さも折り紙付。
即ち、戦いに出ればーーー魔力吸われ放題。

「花菜がプリンあれだけ食べてるのに細くてボインなのが分かったような気がする」
「何ですか急に」

立香の指示で戦闘しているサーヴァント達を横目に、少し離れた場所ーーしかし此処はほぼ荒野ーーで花菜は未那の介助をしていた。
連戦三回目、宝具使用は全サーヴァント最低一回ずつ。

「……あと、ボインって止めて欲しいな……って」
「ボインじゃーん……ゔぐっ」
「古………いえ、なんでもありません」


複数のサーヴァントを連れた立香も、宝具三回ブッ放したアーサー・ペンドラゴンのマスターである花菜も、けろっとした顔で立っていた。
『一般枠のマスター』と言われている立香だが、その才能は確かなものだった。ここで二騎各一回の宝具でくたばる寸前、既に一人で立っていられない未那と比べるのが失礼な程に。……例え立香には強力なバックアップとして、カルデアの電力と更に花菜の魔力の横流しがあるとしても。


「っぐ………!!?ぅ、うううぅっ…………ふへぇ………」
「ちょっ、未那さん!!?」
「も……むり……だめぇ……やめてぇ……クー……わたししぼりとられちゃう………」

何とも情けない色気に欠けた呻き声。
見ると向こうでウィッカーマンがどしーんどしーんしている。…………ジル・ド・レェも二回目の宝具の準備は万端なようだ。

「ちょっとー!!キャスター二人ー!!マスターが死んじゃいますよー!!!」

流石に見ていられなくなった花菜が、そこで漸くストップを掛けた。



休憩と称して未那を介抱する花菜。お弁当にと持たされたロールパンドッグを渡してやりながら、自分は持たされたプリンを味わっている。
戦闘に出ていたサーヴァント達も同じ場所で、束の間の休息を挟んでいた。この休息が明ければまた戦闘だ。

「………どうしたら魔力貯蔵量が増えますか先生」

未那が手を挙げて花菜に質問する。その体は荒野にお花見レベルの大きさのレジャーシート一枚広げただけのデコボコ地面に横になっている情けない姿。その状態でロールパンドッグを食べているから行儀が悪い。
先生、と呼ばれた花菜はかけてもいない眼鏡をクイっと上げる仕草の後に

「魔力回路は生まれ持ったもので、その総数は決まっています。天性のものなので諦めるしかありません」

無慈悲な答えを言ってのけた。

「回路が全部開いていないだけじゃないですか?本当にこれで限界なら、今ある回路全部焼き切れて死んでてもおかしくないですよ」
「さらっと怖いこと言うのね花菜先生ってば」

回路開通は荒療治で行われることもある。
長年修行して漸く、といった魔術師もいるにはいるが、生憎そんな時間は無い。そしてそもそも、未那は魔術師ではなかった。

「『未通』なら『開通』してやりゃいいだけの話だろ」
「そこの。それ以上言うのを止めなさい」

今随伴している中で一番のセクハラサーヴァントがそれ以上を口にする前に未那が止めさせた。言うまでもなくクー・フーリンだ。
調子が悪いながらもロールパンドッグを食べきった未那が、少し落ち着いてきたのか溜め息を漏らす。

「私も、花菜のプリンみたいなものを探すべきかな……。外から補給しないと保たない気がする」
「!!!未那さんも入信しますかプリン教!!」
「え、あ……そ、それはちょっと……遠慮させてもらおうかな……」

きゃいきゃいと楽しそうな花菜と未那を見ながら、集まっていたのは二人が契約しているサーヴァント三人。
立香とそのサーヴァントは、露払いにと既に先行して小物達を倒しに行った。

「……困ったね」

呟いたのはアーサーだ。花菜のサーヴァントにして、主従を越えた関係を結んでいる、クー・フーリンに言わせるところの『羨ましい奴』。

「マスターの魔力は死活問題だ。無いわけではないだろうが、少ないとこの先に不安がある」
「困りましたな」

同意したのはジル・ド・レェ。

「……まー、それでも俺らのマスターだから仕方ねぇっつーか………」

諦めた表情でそう言ったのはクー・フーリン。
クー・フーリンはアーサーに言う『羨ましい』関係を未那と結んでいた。

「……一人で複数のサーヴァントを使役する方が凄いって聞きましたけど……?」
「……ちゃんと使役出来ているなら、ね」

未那の弱い反論に対する若干の辛口は、彼が『アーサー王』だからか。その双肩に乗るものの重さを昔から知っていた。力不足で起きる悲劇を経験していた。
……その重さは、殆どの英霊が知っているものだけれど。
まだ横になっている未那の側に、近寄ったクー・フーリンがしゃがみこんだ。

「……だから俺だけにしとけって言ったろ、ばぁか」
「………うっさい」
「毎夜の無駄な『魔力供給』とやらを程々にしていただければ、私の宝具分は残して頂けると思うのですがねぇ」
「それとこれは別だ、黙ってろ」

ジル・ド・レェの横からの茶々もクー・フーリンが一蹴した。憮然としたジル・ド・レェが手にしている本を持ち直す。

「……でも」
「ひゃうっ……!?」

横になっている未那の腕を一撫でする花菜。
未那が変な声を出したのは、それが予告なしのものだからか。疲れ果てているせいもあり、声も弱い。

「本当に焼き切れてないなら、このまま魔力使わせていけば自然と今使われてない回路が通るようになったりしませんかね?」
「かっ、……花菜、なにしてるのぉ?」
「ちょっと、触診を」

腕から鎖骨の上、脇腹を指先でするりと撫でていく花菜。その指先には微量の魔力も籠められているが、未那に気付く余裕は無い。スカートを穿いている未那の足が、触診で指が服の上を滑る度に動いて、少しずつ肌が露になっていく。

「や……っ、くすぐった……ぁ……」
「少し我慢してくださいねー」
「な、にを我慢しろって……やっ、そこだめぇ」

花菜にとっては触診で魔力回路の有無を確認し、あわよくばそれが回路の呼水にならないか試しているだけなのだが、それに対する未那の反応がこの周囲の空気をおかしくさせている。

「ひっ、ぁ………花菜ぁ、やめてぇ……」
「あとちょっとですよー」
「……………。百合の花」

ぼそりと呟いたのはジル・ド・レェ。彼も百合への関心が無いわけではないだろうが、自分のマスター達はその対象外らしく(ジャンヌ絡みだと突撃していきそうなものだが)、興味なさそうにしながらちらりと他の二人に目を向けた。

「「…………………………。」」

クー・フーリンは未那の側から離れアーサーとジル・ド・レェの近くに戻って来ている。真顔で眉間に皺を寄せつつ女性二人を凝視していた。
アーサーは少しだけ顔を赤らめて目線を反らしている。
ジル・ド・レェの興味はすぐさまそちらに移った。それぞれの恋人同士がなにやらお花の香りに包まれた状況で、この二人の反応は一体何なのか。エドワード・ティーチのような趣味があるわけでも無いだろうに。

「……随分良い眺めだがよ、騎士王」
「………。なんだい?」
「お前さん所、もしかして嬢ちゃん優位」
「そういう所への質問は遠慮願いたい所だけれど、私の沽券に関わるから否定だけはさせて貰うよ」

下衆い。
声に出さずにジル・ド・レェが心で呟く。

「しっかし、良いよなぁ騎士王よ。嬢ちゃんはうちのマスターと比べるまでもなく肉付きの良いカラダしてんじゃねぇか」
「それを言われると困るな……。肉欲であの子の側にいる訳じゃないからね。というか君は私のマスターをどのような目で見てるか聞かせて貰えるかな」
「あーあー抜刀すんな穏やかじゃねぇな。……まぁ、アレだ」

触診が終わったらしい花菜と未那。未那は余計ぐったりとしている様子だ。
二人はサーヴァント達の話している内容に気付いてはいないらしい。くすくす何かを話しながら笑っている。

「俺らの所のマスターも、悪くない女だぜ」
「………。」
「あれでも無理してんだ。普通の魔術師以下の『ちょっとした偶然が重なった一般人』。そう厳しくしてやるな」

『こんな事』さえ無ければ、この中の誰も出会わなかったかもしれない世界で。
今居るーー存在しているーー中で、最弱の存在であるマスターの一人。

「厳しくしているつもりは、」
「アーサー」

花菜の声がする。その瞬間、彼は彼らしくなく、目を見開いて言葉を詰まらせた。

「未那さん、もう少し休ませよう。私達は先に行かない?」
「………ああ」

小動物を思わせる大きな丸い瞳。『可憐』という言葉が似合う、アーサー一人だけのマスター。
アーサーは花菜には甘い。勿論、花菜はマスターとして申し分ない存在ではあるのだが。

「行こう。立香達に遅れを取ってしまったからね」
「おー、宜しくな。こっちもぼちぼち行くからよ」

先行隊を追いかける花菜とアーサーに、クー・フーリンが手を振った。



「何を話していたの?」

花菜の悪意の無い問いかけに、アーサーが眉間に皺を寄せながら苦笑した。

「少し、ね」
「少し、じゃ解りません」

肌触りの良さそうな頬を膨らませ、花菜は少し不機嫌だ。男同士の会話に興味があったのだろう。あの時はそれよりも重要事項があったから混ざるどころではなかった。

「どんな話してたか気になってたのに」
「愉快なものではなかったよ」
「聞いてみないと解らないじゃない」

拗ねながらも無理に聞き出そうとしない所を見ると、少しは遠慮しているのだろう。男同士という世界に、花菜は無意識にでも少し段差を感じているのかも知れない。

「……そうだね」

少しだけ意地悪心が芽生えたアーサーは、拗ねた花菜の耳許に唇を寄せる。

「光の御子が、二人のじゃれている姿が蠱惑的だと言っていたよ」
「ーーーー」
「ああいう目に毒な事は、程々にして貰えると助かるかな」

でないとーーー悪い男は真似してしまうから。

掠れるほどの小声での囁きを聞いた花菜の顔は林檎もかくやと言う程に真っ赤に染まり上がっていた。
否定も肯定も文句すら言葉にならずしどろもどろになっている花菜に、アーサーの止めの発言。

「未那に嫉妬したのも事実だ。……君に触れて貰えるなんて栄誉を、騎士でもない彼女が賜るなんてね」
「!!!?」
「その栄誉を、僕が手に入れるのは何時になるだろう?」

羞恥が臨界突破したかのような表情の花菜。あわあわと動揺を見せ、周囲を見渡してーーー誰も見ていない事を確かめると、そっとアーサーの手を、指を絡めるように握った。

「………今は、これで」
「……花菜」
「は、早く皆に追い付こう!!」

絡めた指もそのままに、前方にいる筈の立香達の姿を探して走り出す花菜。アーサーは、それが羞恥から逃げるためのものだと気付いていた。

「ーーーああ」

唇に笑みを湛え、可愛らしい己のマスターに返事をするアーサー。
愛しさを籠めて、絡まる細い指を握る手に少しだけ力を入れた。



終……?

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