Fgo

□行動燃料、或いは動機
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車を走らせるのにもガソリンが必要だ。
昔だったら『何を当たり前なことを』と思っていたかも知れないが、今はその言葉が頭から離れない。

カルデアのマスター勢にしては珍しく皆小休止の時間が重なった日の事。
厨房から出てきたエミヤが「圧力が掛かってな」と漏らしていた理由は、食堂のテーブルに並んだものを見れば直ぐに解った。
きらきらと艶のあるフルーツと生クリームで、これでもかと言うほどに飾り付けられたバケツプリン・アラモード。生半可なデコレーションではないそれは、カルデア職員含めて全員と均等に分け合ったとしても、充分すぎる量が全員の手元に届くだろう数。具体的には掃除用バケツ並の大きさが十皿ほど。
―――そんなバケツプリンを、一皿ぶん手元に置いて嬉々として食している二人組(食べているのは主にその片方)の姿があった。

「花菜」

嬉しそうに美味しそうに顔ほどの大きさがあるプリンをスプーンで崩して頬張っているのは、マスターの一人としてカルデアにいる花菜だった。そのテーブルの斜め向かいには花菜のサーヴァントである『異世界のアーサー王』、アーサー・ペンドラゴンがいる。
花菜は呼び声に気付くまでこちらの存在を感知していなかったらしく、一度食べる手を止めて手を振ってくれた。

「未那さん!!」
「凄く嬉しそうに食べるね」
「プリンは主食ですから!」

プリンと同じくらいに輝いた瞳で言い切られたそれは、彼女の座右の銘になっているらしいいつもの言葉だ。聞いたのはこれで何回目だろう、と思わず吹き出す。
アーサー王も苦笑しながら、でもどこか嬉しそうな表情をしていた。端正な貌、と言って差し支えない美形が伏し目がちにしながら笑顔を浮かべる。彼の前には花菜の抱えているものから分けたであろうプリンがあったが、あまり食は進んでいないようだ。

「花―――マスターはプリンの事になると、時折私の事も忘れてしまうほどだから」
「そうね、時折それで面倒事に巻き込まれてるみたいだし―――ん?」
「もう、二人とも酷い!」
「…………。」

一瞬何らかの違和感を感じた。しかしその正体には気付けず、まぁいいかで流す。このカルデア内で、それもこのアーサー王の側で何か問題が起こるはずもないという思考の怠慢だったのだが。
この二人はある意味完全なペアで、花菜はアーサー王としか契約していない。だからというべきか、花菜が体内に貯蔵している魔力は存分にアーサー王が使用できるということもあり、滅法強い。
車が走る為にはガソリンが必要だが、アーサー王にしてみればそれは花菜の魔力で、花菜にしてみればそれはプリンなのだろう、と思う。

「………しかし、まぁ」
「?」

ばいーん。
そんな効果音が似合う花菜の胸元に視線が行く。
その胸はなんなのか。プリンか。プリンで出来ているのか。それとも十余年後の女子の発育はこんななのか、と一・二世代前の女子(?)は内心恨み節だ。

「花菜はそんなにプリン食べてても細くていいなぁ………」
「え!細くないですよ!!」
「謙遜すればするほど嫌味だよー花菜ぁー。花菜は可愛くて(胸が大きくて)細くて(お胸が豊かで)魔力量も多くて(ボインで)いいなぁー」
「何か聞こえる!小声で聞こえる!!」
「未那、あまりこちらのマスターを困らせないでくれ」

胸以外細くていいなぁ。というかその胸がいいなぁ。慎ましい胸族は悲しみを包んで羨望の言葉を投げ掛けた。
もりもりプリンを食べ進めるプリン女子、しかしその体は細い腰、豊満な胸…………………ん?

「花菜」
「?」
「それ虫刺され?」

ほんの一瞬、プリンを食べる時に首を前に出すその一瞬。
ネクタイを結ばれた首、服の隙間から少しだけ奥が見えた。
一部僅か赤くなっている気がして、何の気なしに聞いてみる。

「虫刺され………」
「…………………。」
「……………!!!!!」

アーサー王と花菜が顔を見合わせた。そしてアーサー王の顔色は少し青く、花菜の顔色は真っ赤に染まる。
次の瞬間、花菜はバケツプリンの皿を手に、スプーンを咥えて立ち上がる。アーサー王もどこか慌てた表情で、分けたプリンの器を手に立った。

「なっ、なんれもないれふ!びゃあこれれ!!」
「すまないね、未那。失礼するよ!」

喋る口の動きに合わせて口のスプーンが上下する。
『なんでもないです、じゃあこれで』。おおよそ花菜はそう言ったのだろう。急いだ様子で二人が食堂を出ていった。

「………なんなんだろ………」
「そりゃ、お前」

呆気にとられているその背後から声が聞こえる。
声の主は青い髪に緩い服、手離さない長物は樫の杖。契約しているサーヴァントの一人、キャスターのクー・フーリンだ。
契約している上、それだけじゃない仲でもあるのだが。

「気付かれて気まずい事をピンポイントで指摘したからだろうよ。ってかお前本当に野暮だよな」
「え、何が」
「まぁ、野暮ってったら立香もだけどな。このプリン、用意させたの立香らしいぜ」
「え!?花菜じゃないの!!?」

今日一番の驚きポイントだった。

「お前、あのアーチャーが何であの嬢ちゃんの言葉だけでこんだけ作るよ。令呪で命令されたんだと。『お祝い』だってよ」
「お祝い?」
「ま、あの嬢ちゃんがそれにも気付いてるかまでは知らねぇがな」
「お祝いって何の?」
「………………それを俺に言わせたがる辺り、お前もまだ『嬢ちゃん』だよな。本当に司書志望かお前。本読んでっかー?」
「失礼極まりないわね」



結局この日は意味もさっぱり解らなかったけれど。

後日、ダ・ヴィンチちゃんが『あの二人ラブラブだからねー』とさらっとぺろっと漏らしていて、それでやっと全ての違和感に気付いた。
ああ、だから、あの時アーサー王はプリンを食べなくても幸せそうで、名前を呼びかけて訂正したのか、と。

「嬢ちゃんの胸はアレだな、堪能できるアイツは幸せ者だな」
「自害命令するわよ」
「ソレだきゃあ止めてくれ!!」

下世話な話しかしない自称硬派は後で締め上げるとして。

花菜にはプリン。
アーサー王には花菜の魔力。
走る為のガソリンはそれだろうと思っていたが、実は互いの存在自体がガソリンになっていたんだろう。

私にも、心当たりはあるから。





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