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□夢という鎖
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「やっ、ぁ、クー……!!」

最奥を穿たれる嬌声は、家具の然程多くない室内に甘ったるく響く。この声が聴こえるものなど互いしかいないのに、その音の大きさはどこか大袈裟な程で。
響くのは声だけではない。打ち付ける度に結合部から水音がする。二人ぶんの体液が交ざって混じった、淫猥の証。
どれだけの時間こうしているだろう。何度互いに達しただろう。それでも飽くことなく続けているのは、互いが互いを求めている事に他ならなくて。

「だ、めっ、またっ、あ、あぁああっ……!!」

『男』を知って間もないはずの女が、また男の眼前で仰け反る。何度も締め上げ絞り上げ、その胎内にどれだけの欲を求めれば気が済む。求められるがまま、と言わんばかりに、男が仰け反る女の喉元に歯を立てず肉を食む。

「ひ、っ、あ、クー」
「っ…………ふ、っ」

ぶるり、男も震えた。吐息に雑ざった僅かな声が、男の吐精を短く知らせる。
爛れたような情交は、どちらともなくまた始まる。今度は女が上になり、その若い肉を弾けさせた。

「あぁっ、あっ、クーっ。クー、すきぃっ」

発音もやや危うい声が、熱に浮かされたような色で囁かれる。どろどろに蕩けたような雌の顔をしながら、肉欲を求める動きは『調教』が終わったからか。

「好きっ、あ、クー……!もっとぉ……!!」

女の、声。
これは、誰のものだ?



寝起きは最悪、気分は例えようもなく羞恥に満ちている。
寝起きにまず自分の服を確認した。ちゃんと着ている。あの夢の中のような格好ーー全裸ーーではない。
なんという夢を見た。
あの女は間違いなく自分だ。
そして相手はーーー

「………クー・フーリン」

愛しそうに。
親しげに。
自分が甘ったるく名前を呼んだその男は、間違いなく自分の想い人。
恋人か、と聞かれれば、そんな訳ではなく。
あんな風に爛れた仲では無い。爛れていなくとも一切そんな関係ではなく、自分と彼はただの主従だ。……忠誠などないのだが。
処女というのによくもまぁあんな夢を見れたものだ。自分で自分が情けない。
夢の中の彼の香りを忘れたくて、また頭から毛布を被った。



好きな男のタイプーーーでは、なかった。
でも、守ってくれて、強くて、時折優しくて、言いたいことはなんでも言い合える。好きな男のタイプではなくとも、惚れるには充分だった。その端正な外見を差し引いたとしても、だ。

二度寝に成功したものの、次は夢を見なかった。時間に取り残されたように、まだ最初に見た夢を忘れられていない。
起きた。
ベッドから起き上がって、取り敢えず顔を洗おう。今何時だろうーーー

「よ、嬢ちゃん」

気づけば、部屋の中に『彼』 がいた。
クー・フーリン。私の唯一のサーヴァント。

「ひ、っーーーー」

何故彼がここにいるのか。
何故勝手に入ってきてるのか。
寝顔を見られていたのか。
色んな感情がない交ぜになって、思わず声が出た。
………ああ、昨日から立香達がいなくて良かった。
カルデアの私室エリアに響いた絶叫は部屋中に谺して、やがて訪れる静寂に身を任せ溶けていった。



「別にいいだろ、減るもんじゃなし」

絶叫もそうだが、終いには張り手まで喰らって頬を赤くしたクー・フーリンが廊下を進む。その二歩前を歩きながら、背中に彼の苦情を受けていた。
減る減らないの問題ではない。幾らマスターとサーヴァントの間柄といえど、勝手に寝室に入って寝姿を見ていた上、マスターの着替えも気にせず部屋を出ようとしない。……確かに、立香や立香のサーヴァント達と比べればボリュームが足りないかも知れないが。
でもだからって、そうやって女扱いされないのも気に障る。意識しているのは自分だけだと思い知らされる。

「英雄様はそれでいいかも知れないけれどね、生憎私はそんなにおいそれと見られたくないの」
「俺はお前さんのサーヴァントだぜ?そりゃ、男として見られているのは光栄だがよ」

ーーー男として。
その言葉に、今日見た夢がフラッシュバックする。
あんなに艶めいた彼を知らない。
あんなに淫らな自分を知らない。
『そんな仲』になった相手がいなかった。だから、どんな顔をしたら不自然じゃないか考えたけれど。

「ーーー不誠実は嫌いなの」

赤くなる顔を誤魔化して、足早に先を急ぐだけ。

「待てよ」

その腕を掴んで、引き寄せられた。

「ぁ、」
「顔が赤いぜ。熱でもあるんじゃねぇか?」

頬に添えられた手が、夢のそれを思い出させる。それでなくとも、この距離は心臓に悪い。
和太鼓を思わせる鼓動を感じながら、どう反応すればいいか必死に頭を働かせていた。
手を払う?
熱に同意する?
『熱があるのは貴方のせい』ーーー駄目駄目、言える訳ない。

「ーーー大丈夫」

結局選べたのは、そんな当たり障りのない言葉。

「んな訳無ぇだろ、医務室行くか」
「いいってば」

添えられていた手も掴まれていた腕も努めて優しく外し、再度背を向ける。
今顔を見られたら、死んでしまいたくなりそうだから。

「………ったく、強情だねぇ」
「強情結構」

恥ずかしい。逃げたい。曲がり角の前で振り返らずに

「………ちょっとだけ一人にして」

そう告げて、彼を置いて駆け出した。

「………ったく」

彼の呟きは聞こえない。

「ま、いいけどよーーー今は、な」

彼の浮かべた笑顔の意味も知らない。



後日、私は立香から聞いた。
マシュが言っていたらしい『マスターとサーヴァントは同じ夢を見る』ことを。

それは、もう、夢が正夢になってからの話。
聞いた直後、顔から火が出るほどの羞恥に見舞われて丸一日部屋に閉じ籠った。





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