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□お呪い その2
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「しかしよ、嬢ちゃんの呼び掛けに応えるのは俺だと思ってたんだがよ」

快活な声は聞き慣れた音の筈なのに、決定的に何かが違う。
目の前のランサーのクー・フーリンは太陽を思わせる程の爽やかな笑顔で、しかし横にいるキャスターのクー・フーリンは対照的に、凍えるほどに冷たい冬の雨を思わせるような敵意丸出しの顔だった。

ゆっくり食堂でお茶を飲んでいた二人だった。『あの日』から二人の関係は公認、所謂喧嘩ップルの扱い。それで二人から近い席は自然と空いていたのに、その目の前にどっかり座って来たのがランサーのクー・フーリンだ。

「喚ばれる声は聞こえてたんだぜ。でもよ、なーんかいっつも邪魔が入って上手く行かなかったっつーか………なぁ、『俺』?」
「知るか」
「おー冷てぇ事だなオイ。冷たすぎて『氷』みてぇだ」

けらけら笑うランサーのクー・フーリン………ランサーに、また殺意を煮詰めたような表情で睨み付けるキャスター。

「言い争いはそのくらいにして、お茶でも飲んだら?」
「気が利くねぇ嬢ちゃん、流石俺のーーー」
「テメェはバケツで水道水でも飲んでろ」

ガタっ。
にこやかに、しかし完全に目がブチ切れているランサーが立ち上がる。それに合わせてキャスターも立ち上がり、食堂にいた他のサーヴァントはその数瞬の間に更に席を離していた。

「た、助けて!」

マスターの違うサーヴァント同士が争い始めるなんて冗談じゃない。今ここに何故立香がいないのか。
一番近くで赤い液体ーー正体が何なのかは今考えられないーーを飲んでいたカーミラに視線を向ける。すると彼女は少し間を置いて面倒そうに

「……マスターでない貴女からの指示なら、報酬には血を……と思ったけれど。止めておくわ、私が欲しいのは処女の血だから」
「カーミラぁ!!」

人のそういう事をぺろっと言っちゃうのは止めて欲しい。例えこのカルデアに、そんなこと気にするような人物はいないとしても。

「テメェは未那の令呪で俺に攻撃は出来ねぇんだろ、勝ち目は無ぇのにご苦労なこった」
「攻撃出来ねぇだけでルーンは張れるからな。突っ込んできて勝手に自滅してろや」

ああ、もう駄目。これは器物損壊で弁償待った無し。
そんな考えが頭を過った時

「ランサー、『令呪・土下座』」
「ふげっ!!?」

立香の声だった。
目の前のランサーがその場で音を立てて床に付した。見えない力に抗っている様子で呻くランサーだったが、その四肢は徐々に土下座の形になっていく。

「立香ぁ………」
「ごめんね、野暮用があって」

現れた立香の手の甲からは令呪が一画消えている。消しゴムをかけたかのように薄くなった色は、これ以上使わなければ明日には戻るだろう。
令呪をさらっと使用した、マスターとして堂々とした姿に、己の未熟さを恥じる。

「私はこっちのお仕置きしとくから、未那はそっちのお仕置きを頼んだよ」

そして私達をやんわりと食堂から追い出す。
ーーー気遣いか。私にキャスターへのお仕置きなんて出来た試しが無いのに。

「……やれやれ、最悪な気分だ」
「クー・フーリンの気持ちは解るけど……機嫌直して」
「……それは、お前の頑張り次第かも知れねぇな?」

また何をさせる気だこの男。
何はともあれ、目的地を私室にして二人で歩き出す。
その背中を、ランサーの叫び声が追いかけていた。



概念礼装だけ召喚して、打ち拉がれている姿を見ていたかった。
自分以外が手持ちにいなくて、必然的に自分に頼らざるを得ない状態に優越を感じていた。
二人揃えばそれで終わり、完結した世界を気に入っていた。

「………」

今日も先に寝入った自分のマスターを見ながら、彼女にしていた腕枕をそっと引き抜く。規則的な吐息は少しだけ揺らいだが、それでも起きることは無かった。

もう一人の自分には気付かれている。
当たり前だ、あれは『俺』だ。隠すでもなくルーンを使用していたら、それは確かに気付くだろう。

「……もう少しだけ」

今を気に入っていた。
いつでも自分だけのものである、その事実が堪らなく好きだった。

「不便、掛ける」

いつかはそうも言ってられなくなる。けれど、今だけ。もう少しだけ。
前髪に唇を落としながら、眠りに落ちたマスターの腰にそっと『氷』、イサのルーンを指で刻んだ。





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