Fgo

□お呪い
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「また礼装………」

悲しみが目元に溜まって流れ落ちた。床に四つん這いに崩れ落ちる。
何枚めの呼符だろうか。毎回毎回礼装で終わり、力になってくれるサーヴァントが一切来ない。
今日も見学に来ていたクー・フーリンはこの残念な結末にそっぽを向いている。

「もう諦めたらどうだ、マスター」

魔力供給がまともに出来るようになってからは、冗談言うとき以外はほぼ嬢ちゃん呼びが無くなった愛しい人。

「あとその格好は止めろや。ここで犯すぞ」
「!!」

明け透けな物言いに、即座に正座で服を正した。
今回も味方は増えなかった、その事実は居住いを直した所で変わらなかったけど。

「俺がいるだろ、もう良いじゃねぇかよ。立香はクジ運も良いしマスターとしての素質も申し分ねぇ、同行すりゃ向こうも援軍ある、こっちも戦闘に参加できるでWin-Winじゃねぇか」
「立香にだけ負担かけるのは良くないわよ」

それは本心なのだが、どうにも彼には面白くなかったようで、端正な顔が不機嫌に変わる。

「……じゃあ聞くが、どんなサーヴァントをお望みだ?」
「どんな、って………。そうね、貴方がキャスターだから……前衛が来てくれたら嬉しいなぁ」
「……………。」
「立香の所にいる清姫ちゃんとか、ブーディカさんとか!」

並べた名前に、ちょっとだけ彼の表情が和らいだ気がする。

「………女か」
「え、女の人は嫌?だったら新宿のアサーーーー」

ちりっ。
その呼称を出そうとした瞬間、肌が焼けそうな熱い痛みを覚えた。
彼の瞳が、怒りを湛えた鋭い刃物を思わせる目付きになっている。あ、これ多分地雷踏んだわ。

「俺がいながら、よく他の男の名前出せたなぁ」
「違うもの名前は知らないもの。ってか、他意は無いわよ!?」
「どうだか。あんな色男が側にいるんなら、そりゃさぞ任務も励めるだろうよ!」
「また何を癇癪起こしてるの!貴方がいるのに目移りするような尻軽じゃないわよこっちは!!」

多分。その単語は言いかけて飲み込んだ。
クー・フーリンはといえば、最後の言葉に少し機嫌を直したようだ。

「……だよなぁ!こんな美形の俺というものがあって、他の男なんて目に入らないよなぁ!」
「自分で言う?」
「本当にお前は俺が好きだなぁ」
「自分で言ってて悲しくならない?………はいはい好き好き」

軽く流すように言うこの言葉も、本心から来るものだから本当は恥ずかしくて堪らないのだけれど。

「ま、今日はその言葉に免じて二回で我慢してやるよ」
「………本当に私を殺す気?」
「あー、でもよ未那」

急に名前を呼ばれて肩が震えた。この男が名前を呼ぶのは、大抵良からぬことを考えている時だ。例えば、今から組み敷こうとか。

「俺に黙って召喚するまでは、まぁ、良しとしよう。………だが、魔力供給で『触れる』以上のことは絶対にするな」
「………え、い、以上ってことは触るのも駄目?」
「当たり前だろ。何勝手に触ろうとしてんだ、お前は俺のなんだから触るのも俺にだけだ」
「………あ、握手とか……立香にしてるみたいな、軽いボディタッチとか」
「…………『触るな』。………女になら良い」

彼なりの落としどころを見つけたらしく、最後はそこで折り合いがついた。
いつまでもここにいたって仕方ない。帰ろうとすれば、彼は腕を腰に回してくる。

「クー・フーリン、歩きにくいよ」
「我慢しろ」
「先にお風呂入りたいから、部屋で待ってて」
「お、一緒に入るか?俺が隅々まで洗ってやるぜ」
「結構です」

けらけら笑うその顔を見ていると、唯一のサーヴァントが彼で良かったと思うこともある。
一番近くで、誰の邪魔もなく、好きなだけ笑顔を見ていられる。
呼符で戦力が増えないのは確かに残念。ーーーでも確かに、ホッとしている自分もいるのは………まだ、彼には黙っておこう。



手が回された腰、その背中近くでイサのルーンが砕けて消えた。
刻んだのも、砕いたのも、それは勿論一人しかいなくて。





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