Fgo

□夜の残滓
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もぞ、もぞ。
どうにも落ち着かなくて、腰に手を当てては身動ぎを繰り返す。眉間に寄った皺を気にして、マシュが顔を覗き込んできた。

「………未那さん?」
「えっ!?あ、はい!?」

上擦った声が大きかったようで、マシュが大きな双眸を瞬かせた。申し訳なさで肩を竦めながら、改めてマシュに視線を向ける。

「一体どうしたんですか?」
「………………。」

大きくて逞しい胸板。
力強くて逃がしてくれない両腕。
逃げ場を求めて動かしても絡み付いてくる両脚。
整いすぎてて怖いくらいの顔立ち。
そして何より、有無を言わさず挿入り込んできた―――

「うん、言えない」
「えっ」
「ごめん」

思い出すと顔が熱くて堪らない。そんな顔を見られたくなくて顔を逸らした。………その先に立香がいた。
立香は何やらニヤニヤしたまま口に手を当てている………って、何があったか知ってるな。

「マシュ、聞いちゃ駄目。未那にも退っ引きならない事情があるんだよ」
「いけしゃあしゃあと」
「せ……先輩?未那さん?一体何が」

これ以上二人と一緒にいるのは危険だ。隙を見てそそくさと逃げ出した。



好きな男と体を重ねるのは幸せなことなんじゃなかったのか。
必要なことだというのは理解しているが、心が追い付かない。責務あっての交わりだから、心の在処などどこでもいいのだろうけれど。
それでも、自分は夢想家のようだと思い知る。愛して愛されて、それで、なんて。
マシュも立香も、私が逃げたことには気付いてないだろう。或いは今頃気付いたか。

「……はぁ」

盛大な溜め息を吐く。
昨日の選択は間違いだったか。首筋噛まれて血を飲まれたほうがまだ心は楽だったかも知れない。
処女を失い、魔力供給をして、それで私が戦力になるのなら―――嫌だ。
それはつまり、彼を、あの男を、戦闘に駆り出すと言うことだ。愛しい人が傷つくと言うことだ。
今の私にはそれがどうしても出来そうにない。例え、相手がこの気持ちに気付いてなかったとしても。

「筋肉痛か?」
「やー……、人生ってままならないなぁって思っ」

掛けられた声に何ら疑問を抱かず返答した。
その声が誰のものか気付いたのはその直後。

「ひあああああっ!!」
「うるせぇよ」

昨日の今日で、どんな顔をして会えばいいか解らなかった相手だった。
高い背を折り曲げて顔を覗いてくる。隠しようがない顔はきっと真っ赤だ。必死に隠そうと両腕で覆う。

「………互いに服の中身まで見た仲で、それは今更なんじゃねぇの?」
「………!!!」
「ま、いいけどよ」

ぽんぽん。頭に手を置かれて軽く撫でられる。まるで子どもにするみたいだ。

「体」
「………?」
「大丈夫か」

優しい声。
昨日みたいに、ひどく低くない。

「………大丈、夫」
「そうか」

そっと抱き寄せられて、耳許に唇が近付いて。

「じゃ、今日もイケるな」

そんな凶悪なことを言われて、体が離れて。

「はっ!!?」
「んじゃー、また後でな。逃げんなよ」

からから笑いながら、あっという間にいなくなった。
取り残された私は、脱力感に思わず座り込む。また、昨日と同じ事をするのか。激しくて、優しいのに拒否権がない、あの義務感だけの行為を。

腰に纏わりつく違和感がどうしても消えない。
ひどく優しく蹂躙された部分が、彼の言葉を思い出して期待に僅か反応した。





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