中編

□8.永遠を覆すのは
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気がつけば青い部屋にわたしは居ました。
わたしにはきょうだいがいるそうです。わたしは末っ子なのだそうで、主は順にきょうだいを紹介してくれました。


花の名前の綺麗な姉様達。
すらりとした長身の兄様。
紹介が終わると、下の姉様がずしりとした分厚い本を渡して下さいました。

主が言う所によると、わたしは『体を何等かの理由で失った魂だけの存在』だったそうです。わたしには此処に来る前の記憶がありません。
兄様に聞くと「そういうものですよ」と、困ったように笑っていました。


体を失った魂だけの存在。
では、以前わたしには体はあったのでしょうか。今の体に不満はありませんが、わたしだけ茶の癖が強い髪と赤の瞳です。何故きょうだいと一緒ではないのでしょう。
………しかし、そんな事を考えてもどうにかなる訳ではありません。油断をしていると下の姉様からきな粉料理を食べさせられますし、元気がないという理由で兄様からは機械フライを押し付けられます。あんなん食べ物じゃねーよ。


体があるわたし。
外の世界で生きていた?
兄様に外の世界の話を聞いたら、ひどく悲しい顔をされました。
わたしが悪い事を言ったのかと問うたら、「貴女は悪くありません」と言われました。
何があったのでしょう。


下の姉様から渡されたのはペルソナ全書というものでした。……何故でしょう、見覚えが、あります。
きょうだいから渡される本も好きです。外の世界のものだというそれらは、とても面白いです。……それらにも、見覚えがあります。
「以前、貴女が生まれるより前にいらっしゃった客人がお持ちになったものですよ」
と、悲しそうな表情をする兄様も。
「却下」
と、兄様が言い出す噴水設置希望に繰り返し58回目の却下を降す主も。
見覚えがあるのは、何故でしょう?


覚えがあるのは、それだけではございません。
胸の奥深い所に燻る『あのひと』。
いつも思い出せずにいるけれど、ずっと引っ掛かったままの『あのひと』。


「兄様 姉様」



温かかった『あのひと』
温めてくれた『あのひと』
心配させる『あのひと』
忘れられない『あの人』。



「わたし 外に行きたいのです」


出逢えたなら、きっと思い出す。
覚えていない『あの人』、貴方に聞きたい事があるのです。
わたしが体を持たない理由。
わたしは貴方の何だったのか。
わたしの記憶に何故貴方がいるのか。

わたしは、貴方から見て人間ですか?それとも


「わたしは、わたしが生まれた意味を知りたいのです」


わたしは今なら言える。

何度生まれ変わっても貴方に巡り逢う。

私は、貴方と出逢う為に生まれて来たのだと。



今はまだ知り得ぬ貴方の姿を求めて、どこから入手されたのか解らないアンゴラニットに袖を通しました。
ベルベットルームの扉は驚く程に軽く開きます。四人が見送りをしてくれましたが、逸る気持ちを抑え切れずに振り向く事すら忘れていました。


扉の向こう、初めてじゃないのに覚えている景色では、風に乗って桜が散ります。
これが聞いた『春』でしょうか。
道ではスーツを着た人々が足早に通りすぎます。……子供もいる。ここは、学校?



散った花びらの向こう
桜に霞む世界で



「――――――!!!」


覚えているあなたが、
愛しいあなたが


「―――!!?…………きみ、は」
「………ぁ、」



立って、いました。











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