中編

□3.おもいでの場所で
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「あれー、開かないよ!?」
「……今日は日曜だ、当たり前だろう」

何処に連れていくのか、と思えば場所は見慣れた母校、月光館高校だった。
三年過ごしたのがつい最近のように思えるくらい、確かに馴染み深い年月だったと思う。
彼女と出会い、穏やかな時間を過ごしたのが一年足らずだとは思えない程に。

「……今日……日曜だった、の……!?」
「ああ」
「いつから!?」
「……君はどんな返答を待っている?」

入りたかったなぁ、と残念そうに肩を落とすのを見て、思わず笑いが込み上げる。思い出の中でも、こうして彼女は笑っていた気がする。

「でもさ、懐かしいよねー!制服姿の秀利君!!」
「……君の記憶は余計な事を刻んでいるな」
「余計な、って何。あーあ、生徒会室が懐かしい。ねぇ、二人でよく残って作業したよね」
「僕だけで構わない、というのに君が会長に進言して……」
「本当に、……懐かしい、ね」

校門に指をかけ、眩しそうに瞳を細める彼女。夕日に照らされる校舎は、確かに光を反射していた。

二年の時の卒業式。三年を送り出す中に君はいなかった。
三年の時の始業式。君はいなかった。
終業式、夏休み、文化祭、どこにも君の姿は無かった。

「一緒に卒業したかった、な」
「……僕も同じだ」
「……そっか」

君は居なかった。
君の姿は無かった。
無くなった。

それが自分の中で『亡くなった』に変わるまで、一体どれだけの時間を使っただろうか。







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