短い夢

□映る世界はアオだろうか
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庭の向日葵に水をあげていたら、縁側で読書中のマルスが妙な事を呟いた。




「そういえば空と海はいよね。何処を見ても、全部ばっかりなのかな」

『…そりゃあ色の海や、の空は無いと思うけど。いや、わたしが知らないだけで、世界の何処かに有るかもしれないけどね』



じょうろの中が空になったのを確認して振り返ると、マルスは無表情のまま手元の本に視線を留めていた。どこか、ぽけっとした表情だ。


チョコレート色の分厚い本から目を離し、彼はゆっくりこちらを見た。ページから覗く不気味な挿し絵が、やけに目立つ。




「ボクの目がいから、その虹彩を透してそう見えてるだけなのかな、って思ったんだ」

『だったらそのも、この向日葵く見えるって事?』

「あ…」



それに。




『虹彩を透かしてるなら、わたしの見る世界はいつも真っ黒じゃない?』



無意識の内にくすくす笑いながらそう返す。するとマルスも「そういえばそうだね」と言って、先程までの無表情を崩した。


あぁ、この人は花が咲くように笑うから綺麗なのか。












わたしにだって、アオく見えてるよ。






目に見える景色と虹彩があまり関係ないのは、承知の助です。
事情はともあれ、ほんの少しだけ、めらんこりーになっていたマルスくんでした。

 

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