嘘吐遊戯

□天使の名前
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病院独特の臭いが、鼻をつく。

「こんにちは、秋山さん」
「どうも」

面会表に、自分の名前を書く。

「経過、順調ですよ」
「ありがとうございます」

その後、少し会話を交わして、オレは病室へ向かった。



コンコンコン

"どうぞー"

がらっ



「深一さん!」
「よう」

ベッドの上で体を起こして、直は笑っていた。

「元気か?」
「それはもう!」
「そうか」

椅子を引き寄せて、座った。

「暇だろ、こんなとこに缶詰めで」
「全然ですよ。…そう、私、名前考えたんです!」
「ほぉ。どんなのだ」
「男の子だったら"まこと"、女の子だったら"みのり"です!」
「……ぷっ」

つい、吹き出してしまった。
由来が丸見えだったから。

「お前…漢字もそのままか?」
「えー、いけませんか?」
「いけなくはないが、将来理由を訊かれたときにどう説明するつもりだ?」
「そこは、深一さんがうまくごまかしてください」


"まこと"と"みのり"で、"真実"とは…。


「わかった。今から上手い言い訳を考えておいてやる」
「さっすが!頼りになります」

そう言って屈託無く笑う。

「………あ!」
「ん?」
「今、動きました!」
「…へぇ」
「……それだけですか?」
「その感覚に関しては部外者だからな。残念ながら」
「えーっと……あ、じゃあ触ってみてください」

手を引っ張られて、布団ごしに直のお腹に触れさせられた。

「………うわ」
「ほら!…やっぱりわかるんですかね?」
「…………」
「深一さん?」
「……よかったのかな?」
「よかったです!」
「即答か」
「だって今、すごく幸せなんです」

…そんなのは、お前を見てればわかるんだけど……。

「親は選べないっていうだろ」
「そんなことありませんよ…わ、ほらまた」
「……………」
「ね?この子も幸せなんです。……ほら、お父さんだよー」



お父さんはスゴいんだから!



それが最近の、直の口癖だ。

「どんなピンチも乗り越えちゃうんだよー」
「話を盛るな」
「操縦難しいけど、お母さん頑張るからねー」

……いつになくキツいな。
母は強し、か?

「………オレだけか」
「なにがですか?」
「不安なのは」
「そうですよー。案ずるより産むが易し、ですよ」
「……ちょっと不安の種類が違うがな…」

…まぁいい。

「言い訳考えながら待つよ」
「楽しみにしてます」
「馬鹿」
「胎教に良くないです、それ」
「……ごめん」

責める視線に、素直に謝った。



「…ありがとうな」
「こちらこそ!」





それは、カミサマからの贈り物
 
ふたりで見つけた物だから
天使にその名前をつけよう






(遠くなったな…あのゲームも)






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胎児の性別は黙ってても教えてくれるもんだと思ってました。教えてくれないところもあるんですね。

2010.01.05.up


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