嘘吐遊戯

□捨てられ猫の明日
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雨が、傘を叩く。

「……………」
「…に……にぁ〜」

早く帰らないと、オレの家で直が待ってる。

…だが、

「にゃあ〜……」
「……………」

足りない食材の買い出しをかって出た、その帰り道。

行きにはなかったそれの前から、足が進まなくなってしまった。


……捨て猫…いや、捨てられ猫。


"メスです
かわいがってください"

という決まり文句の書かれたダンボール箱の中で、ずぶ濡れになりながらその猫は鳴いていた。

にゃ〜、とか細い鳴き声を出し続ける彼女は、生後間もないように見える。

「…にあぁ〜………」
「………………」

……オレが言うのもなんだが、酷い奴がいるもんだ。



……さーん



「ん?」

呼ばれた気がして、そちらを向いた。

「秋山さん!遅いです!」

傘をさした直が、水たまりを避けながらぱたぱたとやって来た。

「傘持って行かなかったから、心配してたんですよ?」
「…すまない」

直の言うとおり、行きは雨が降っていなかった。帰りに雨に遭遇して、途中のコンビニでビニール傘を買ったのだ。

だから捨てたんだろう。天気予報も、雨にはノータッチだった。さすがに雨の中に捨てる奴はいない、と思う。

「…あれ、猫ちゃんですか?」
「捨てられ猫」
「うわぁ、びしょ濡れ!かわいそう……」

そして、予想通りの発言が飛び出ることになる。



「飼えませんか、秋山さん!」



「無理」
「秋山さん!」
「オレんとこペット禁止」
「あ………」

予想以上に、しょぼん、となってしまった直。

「…しょうがないだろ」
「………かわいそう……こんな生まれたばっかりの子…」

直はしゃがんで、自分の傘の下に猫を入れながら、彼女の頭をなでる。


「ヒドいなぁ……捨てていい命なんかないのに」


「………――」
「猫ちゃーん……あーっ、連れて帰りたいなぁ…でも無理なの、ごめんね〜…」

ナチュラルに、猫と会話を続行する直。

「に…にぁ〜……」
「かわいい〜っ!かわいそうー!やっぱりなんとかなりませんか、あき……秋山さん?」

直がオレを見上げる。
その顔が、少し驚いたものになっていた。

「どうしました?」
「何が?」
「何がって……だって秋山さん、泣いてるじゃないですか」
「……ん…」

手で頬を拭うと、確かに一筋、なにかが伝っていた。

「……雨だろ」
「なら…いいんですけど」

不服そうだったが、オレよりも彼女の方が気がかりだったようで、

「どうにかなりませんか?」
「ならない。残念ながら」
「……そうですよね…」
「…だがまぁ、このくらいなら」

ダンボール箱をおおうように、傘を立てかけた。

「……秋山さん…」
「とりあえず、雨はしのげるだろ」
「じゃあ、あとで何か食べ物も持ってきてあげましょう?」
「お前が作ったら、残飯なんか出ないぞ」
「えっ…ありがとうございます……じゃなくって!ミルクとか…」
「そうだな」

直は笑った。彼女に またね、と声をかけてから、

「とりあえずご飯にしましょう!」
「あぁ。…傘よこせ」
「大丈夫ですよ。秋山さんは荷物持ってくれてるんですから」
「もっと人を使うことを覚えろ」

半ば強引に傘をひったくる。

「ちょ、秋山さん!じゃあ、またね、猫ちゃん!」
「…みぁ〜」


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