嘘吐遊戯

□encounter
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無意味にケータイをぱかぱかしながら、頬杖をついて通りを眺めていた。


友達とお昼ご飯を食べて、友達は大学に戻った。

私は午後の講義は無くて、空っぽの時間をつぶすように、テラスの席に座っていた。




最近、秋山さんと会ってない。




仕事が忙しい……って、その一点張りだった。

迷惑になるのだけは避けたくて、メールも控えていた。


「………はぁ…」


車が走っていく向こう側を、人々がせわしなく歩いていく。

誰もがなにかと戦っている。
私が特別苦しいわけじゃない。
ただ、彼が戦っているものは、


「確かに大きいけど…ひとりで抱えなくても…………、あれ?」


ぼんやりとしか見ていなかった"人々"の中に、見覚えのある人を見かけた。気がした。

びしっとネクタイをして、背筋を伸ばして歩いてくるその人。


……人違いかな?でも……


電話してみよう。
人違いなら、それはそれでいい。



かちかちかち

プルルル…
  プルルル……



向こうにいた人が立ち止まって、ケータイを取り出すのが見えた。

かちゃ



"もしもし?"



馴染んだ声が、耳に届く。

「やっぱり秋山さん!」
"は?…何言ってる、お前"
「向かいに、イタリアンレストランがありますよね?」

彼がこっちを向く。
すぐ、目に入ったようで、

"…なんだよ、そこか"

手を振った。
軽く手を挙げて返してくれた。

"何かあったのかと思った"
「何かなきゃ電話しちゃいけませんか?」
"いや……悪いな、最近"
「全然だいじょぶです。……お仕事、忙しそうですね」
"あぁ。足元見られてる感じがしないでもないが…まぁ、しょうがないさ。前が前だからな"

電話越しに、ふぅ、とため息が聞こえた。

"ずいぶんと優雅な昼飯だな"
「安くて美味しいって、大学でウワサになってるんです。秋山さんは、お昼は?」
"まだ。もう一件残ってる"
「そう……ですか」
"……ごめん"
「あっ、いえ、すいません!」

………なに情けない声、出してるんだろう。

"…ん、そろそろ行かないと"
「ごめんなさい、なんか」
"いいよ。じゃあな"
「はい!」

通話を切った秋山さんは、ちょっと早歩きで、人ごみに消えていった。



もっと言いたいことがあった。

寂しいです
一緒に居てください
今度はいつ会えますか

だけど、そんなこと言わない。

私は気にしないって言っても、
彼はいつだって、それじゃダメなんだ、と言う。

だからもう、
何も言わないって決めた。



私は待てるもの、何年でも。



「…あ、メール」


"今度、もっと美味いとこ連れてってやるよ。"


……もう。秋山さんってば。





街中のあなたを見かけた日
 
あなたが償えたと思えるまで
あなたが心の底から笑えるまで





(楽しみに待ってます、秋山さん)






******
普段とは違う秋山さんに遭遇した直ちゃんのお話でした。たくましいよ直ちゃん。
スーツを着た彼は4割増でカッコいいと思うんだきっと。想像できないけど(笑

2010.09.27.up


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