嘘吐遊戯

□カンザキナオ
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コンコン コン

"どうぞ"
「失礼します」

かちゃ…

「待ってましたよ」
「すみません、ちょっと前の講義が…」

私は、若干ビクビクしながらその人と会話していた。

「えっと……なにかご用ですか、葛城教授」
「今日は、あなたに会わせたい人がいるんですよ」
「私に?」
「えぇ、彼です」

教授は、紅茶の入ったカップの置かれた机をはさんで、自分の向かいに座っている男性を指した。

足を組んで、冷たく興味なさげに私を見上げているその男性を、私は見たことがあった。


ただ、なんとなく信じられなくて、その可能性を脳内で否定した。


「紹介しますよ」
教授は私を指して、
「この子は、私の講義を受けている…」
「カンザキナオです。初めまして」
「…………」

カップを持ち上げる彼の手が、止まった。
そして、無表情なのにどこか驚いたような顔がこちらを見上げた。

「漢字は違いますよ。奈良の情緒で"奈緒"です。まぁさすがに、神崎は同じですが」
「……………」

彼はそれを聞くと、また興味を失ったように動作を再開した。

「あの……?」
「共通の知り合いに、カンザキナオがもうひとりいるんですよ」
「あぁ、そういうことですか」
「それで彼は……あぁ、せっかくですから名乗ってください」
「…めんどうな……」
彼は初めて、口を開いた。
そして、私が絶句する番だった。



「………アキヤマシンイチ」



「……え?」

先程、自分から打ち消した可能性が、急に信憑性を帯びた。

「昔、大学でライバルでした。……という紹介でいいですか?」
「なんでもいい」
カップの中を飲み干して、それを置く。
「…もっとストレートでも、なんでも。どうでもいいことだ」
「そうですか。では…こちら、元天才詐欺師さんです」
「……やっぱり…あの、秋山深一…なんですか?」
「その人本人です。…彼女、あなたのファンなんですよ」
「……なにをバカな」
「本当です!まさかお会いできるなんて……釈放の時となんだか雰囲気が違うので…」

でも本当に、本物の、あの、秋山深一なんだ…!

「あのっ、質問いいですか?」
「…………」
彼は、めんどくさいやつに引き合わせやがって、という目で教授を見たけど、私は気づかないフリをした。



「詐欺師を…いえ、あなたを騙すことは難しいでしょうか?」



「………奇妙な質問をするな」

そんなことか、とでも言いたげな口調だった。

「そうでしょうか?あなたは、世間で天才と呼ばれていました。そんなあなたを騙すことは、容易では無いはずです」
「…事実、そこの教授さんには出し抜かれたぞ、二度」
「えっ?!そうなんですか、教授!」
「まぁ……だいぶやりかえされましたが」

微笑みながらそう言って、静かに紅茶をすすった。

「オレも人間だからな」
「そう……ですか」

ちょっと、がっかりした。
オレは誰にも騙されたりなんかしない、とか、自信満々に言う姿を期待していた。

「…それに、


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