嘘吐遊戯

□風にひらり、
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「桜がキレイですね!」
「そうだな」

川の土手に植えられた桜は、見事に満開。
そして、天気も快晴。

まさに、お花見日和!

もちろんお弁当も作ってきたし、レジャーシートとかもばっちり。
来週には雨が降っちゃうみたいだったから、今日この日曜日が最後のチャンス。
腰の重かった秋山さんを、なんとか誘い出すことに成功した。

土手の斜面には、レジャーシートを敷いて桜を楽しんでいる人がたくさんいた。
春だなぁ…。

「桜っていいですよね!」
「好きか?」
「はい!」
「どうして?」
「えっと…キレイだし、見てるとなんだか、落ち着きます」
「そうか」

秋山さんは優しく笑った。

「でも、なんでですか?」
「いや、お前にぴったりだなと思って」
「私に、ですか?」
「…この桜、ソメイヨシノだろ?」
「え? あぁ、たぶんそうだと思います」
「ソメイヨシノの花言葉、知ってるか」
「えっと、確か…」



 ―純潔。



「…ですよね」
「だから、バカ正直なお前にぴったりだ」
「な……秋山さん!!」
「そんなに怒るなよ」

いつにないくらい、本当に穏やかに笑う秋山さん。
本当に、いつもの秋山さんじゃないみたいに……。



「……どうした?」



そう、声をかけられたときには、秋山さんと3メートルぐらい離れてしまっていた。
さっきまで、一緒に並んで歩いていたんだけどな…。

「いえ、なんでも……」

ありません、と言いかけたその瞬間。
風がたくさんの桜の花びらをまとって、私と秋山さんの間を通って行った。


桜吹雪の向こうにいる秋山さんが、
そのまま消えてしまいそうに見えて、
なんでそんなふうに感じたのか、
全然わからなくて、
どうすればいいかもわからなくて、


「……おい、どうしたんだ」

そう言いながらこっちへ近づいてくる秋山さんを、見ていることしかできなかった。

「…いえ、なんでもないです」

さっき言えなかった続きを言ってから、すみません、と笑ったら、
秋山さんは少し困ったように笑った。


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