嘘吐遊戯

□2月13日
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"秋山さーん、開けてくださーい"

「………んぁ?」

ドアを叩く音と自分を呼ぶ声とに起こされて、咄嗟に情けない声が漏れた。
誰もいなくて心底良かったと思いながら、玄関に向かう。

「……何?」
「おはようございます!」

扉を開けると、声の主がにっこりと満面の笑みで立っていた。
両手に買い物袋を下げて。

「お邪魔しまーす」
「はいはい」

直が突然来る事なんて、日常茶飯事レベルを通り越す。

「キッチン借りますね…って、ちょっと秋山さん!」
「なに」
「汚いんですけど!」
「…ごめん」
「もー……綺麗にするところからですね…あ、秋山さんは寝ててもいいですよ」
「…………オレの家だぞ」

まぁ、正直眠いが。
遠慮なく寝かせてもらう。







「………ん?」

今度は、甘い香りで目が覚めた。

「あ、ちょうど良いタイミングで起きてくれました!」
「は?」
「これどうぞ!」

冷蔵庫から出して渡されたのは、皿一杯に敷き詰められた小さいハート型の、

「……チョコレート?」
「はい!」
「………なぁ、今日さ、まだ13日なんだけど」
「だって明日は月曜日じゃないですか」
「あぁ、まぁ」
「だから、お仕事とかあるのかなって思ったんです」
「……そう」
「これ、1コ食べてみてください」

言われるままに、直が持つ皿からチョコをひとつ取り、一口かじってみる。
所詮チョコはチョコだろ、という先入観は早くも崩れた。

「……ん…なにこれ」

チョコの中は空洞で、中からメッセージの書かれた小さな板チョコが出てきた。

…またこんなこっぱずかしいことを…よくも書けるな。

「…どうやって?」
「空洞ですか?氷でです。板チョコごと凍らせて、周りにチョコをかけてから氷を溶かすんです」
「……そんなに早く水って凍って溶けるか?」
「これですよー」

じゃーん!…とビニール袋から出してきたのは、発泡スチロールの箱。

「今日ここでやったのは、溶かすことだけですから」
「………そう」

直のこういう知恵には、舌を巻いてばかりだ。
…悔しくもなんとも無いが。

「……ありがとう」
「はい!」




…実は、




バレンタインに直から何か誘われるのは予測済みで、
明日は無理言って早く帰れるようにしてあった。

そんな事を直が知るはずもない。
…知らせるつもりもない。

「ホワイトデーはなにが良い?」
「秋山さんがくれる物ならなんでも!」
「……そういうのが一番難しいんだが…」




Valentine's day eve
 
チョコレートの中からチョコレート
君の言葉の中から優しさ





(…どうしようか……?)






******
クリスマスイヴ的な(笑 あのチョコの作り方は伊○家の食卓かなんかでやってました。
ホワイトデーはタイトルだけ決めました。内容はどうしよう…。

2011.02.13.up


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