仮想空間

□独眼竜
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「一揆を扇動しているのは政宗である」という情報を得た秀吉は、政宗のもとに三成を差し向ける。
一方の政宗は、一揆を次々と鎮圧し、疑いの目を己から逸らそうとしていた。


小田原参陣時以来の、政宗二度目の窮地である。






書状を書いていると、入り口がすっと開いた。

「政宗様」
「なんじゃ」
「客人が参っております」
「誰じゃ」
「石田三成様にございます」
「…三成、じゃと?」

とうとう来た、というわけか。

「……会おう。通せ」
「はっ」

家臣が退いた横から部屋に入ってきたのは、まさしく三成。その後ろで、襖が閉まる。

「久しいな、政宗」

糞真面目な三成は、七つも年下のわしの前でも、きちんと正座をする。
豊臣家の恥にならぬように…か。

「前置きはよい。用件はなんじゃ」
「では。…秀吉様が、お前に上洛するように、とおっしゃっておられる」
「………」
「…この俺が来ている意味、お前ならわかるだろう」

豊臣生粋の文官である三成がわざわざ振れに来た。つまり…

「秀吉の中では、わしは限りなく黒…というわけじゃな」
「そうだ」
「…………」
「出来るだけ早く、上洛することだ。…今度は白装束だけでは済まないかもしれんがな」
「…わかっておる」
「それから、俺は木村親子らを伴って帰京するよう言われている。異存は無いな」
「勿論」

…そこで会話は途切れ、沈黙が流れた。

「…政宗。……お前はいつまで、父に依存して生きるつもりだ」
「…なんじゃと?」

左目だけで睨みつける。
だが、奴がひるむはずもない。

「今、天下を狙い小競り合いを起こして、何になるというのだ」
「貴様には関係無かろう」
「………まぁいい。お前が敵になっても、俺はお前を倒すだけだからな」
「…ふん。貴様こそ、秀吉に依存しておるのではないか?」
「俺は秀吉様に恩義がある。忠節を尽くすのは当然だ」
「意固地な奴め」
「その言葉、そのまま返すぞ。…お前はとり憑かれているように、俺には見える」
「馬鹿なことを」
「貴様は竜なのだろう。ならば、亡霊などに捕らわれずに、自由に大空を駆けたらどうだ」

もう言うことは無い、と言うように、三成は立ち上がる。

「京で待っているぞ」
「五月蝿い、わかっておる」



三成と入れ替わりに、孫市が入ってくる。



「どうすんだ?」
「上洛はする。…じゃが、あやつの言う通り、白装束だけでは駄目じゃろうな」
「だなぁ…」
「…何か良い策はあるか、孫市」
「そうねぇ………」

顎に手を当てながら、孫市は唸った。

「…金の磔柱、ってのはどうだ?」
「金の…磔柱」
「秀吉は派手好きだし…」
「磔にするなら、これぐらいの物で無ければ承知しない…と」
「あぁ。…どうだい?」
「………そうしよう」
「しっかし…面白な奴だな」
「む…?」
「憑かれている…ねぇ。そう思ったことはなかったなぁ」

世間では、わしの陰謀説まで流れているあの出来事。
子が親を殺し、親が子を殺す時勢。

…くだらぬ。


そのような事を繰り返さぬために、わしは天下を…。


「……孫市」
「なんだい?」
「わしは…天下はもうよい」
「…政宗?」
「……………、上洛の準備を急がせるのじゃ!」
「何だよ突然、俺じゃなくて家臣に言えよ」
「わかっておる!聞いていよう、小十郎!」
「はっ、直ちに!」






数日後、政宗は金の磔柱を隊列の先頭に押し立てて上洛した。
自分の書状を見せられた際には、"鶺鴒の目に穴が空いていない花押は偽物である"と言い張った。

秀吉はその主張を認めた。






「金の磔柱とは、思い切った策に出たな」
「……五月蝿い」

秀吉との謁見を終えると、曲がり角に三成がいた。

「わしは竜…独眼竜政宗だ。やりたい事を、やりたいようにやる」
「まだ天下を狙うのか」
「それはもうよい。…天下を取った頃に、老いぼれになってしまっていてはな」
「…憑き物が落ちたか」
「黙れ」

三成は、薄く笑みを浮かべた。
…癪に障る奴じゃ。

「わしは…天下の中身を作る」
「天下の中身?」
「そうじゃ。…親子で殺し合う必要のない世を作る。…天下の外枠など、誰が組み立てようと構わぬ」
「…なるほどな」
「貴様らの邪魔はせん。文句はなかろう」
「勿論。…だが、不穏な動きを見せたときには…」
「はん、貴様などに負けはせぬわ」





その後の領地替えの結果、政宗は石高を増やしはしたが、経済的な要地を減封され大きな痛手を受ける。

事実上の懲罰である。

だが政宗は、世情の安定した晩年…江戸時代に仙台藩の初代藩主となり、領国の発展に力を注ぐ。
荒廃の激しかった葛西・大崎を改修し、実高百万石とも言われる仙台藩の基礎を作り上げるのである。






******
本文が割と支離滅裂だったので、上げるのをためらっていましたが、ご存知の通り、大地震が東北を襲いました。
惨状が明らかになるにつれ、ふと、これを書いていたことを思い出しました。
伊達政宗は父親を射殺するという辛い過去を背負いながらも、戦乱で荒廃した土地を見事に立て直しました。

戦国・江戸時代に出来たことが、現代で出来ないハズはない。
東北はきっと復興する。大丈夫。


2011.04.10.up

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