仮想空間

□銀雪
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「にゃは〜…吐く息白い!」

上田に雪が積もった。
最近は何事も無く…平和な日々がずーっと続いてる。

「さすがに寒いよねぇ…」

いつもの仕事服じゃなくて、普段着を着て回廊をてくてく歩いていた。


…にぁ〜。


「ん?…あ、ネコ!」

ネコちゃんは廊下に足跡をつけながら、すたすたと歩いて行く。
少しすると、器用に立ち上がって障子の枠をかりかりと爪でひっかいていた。

……あそこは…


「…おや、かわいい客人が来たものだ」


部屋から出てきたのは、幸村様。
幸村様も普段着。いつもは赤い軍装だけど、普段は薄い紺の服を着ている。
額当てもしてない。その代わり、赤い鉢巻を巻いてる。

「雪でぐっしょりだな…中に入ると良い。……さぁ、そなたも」
「―!!」

話の矛先が突然自分に向いた。

「いえ、あの、」
「何か他所に用があるのか?」
「そうじゃないですけど…」
「なら、少し温まると良い。…そなた、震えているぞ」
「へ?」

…そう言われると……

「っくしゅん!」
「ほら、風邪をひく」
「うぅ…それじゃぁ、お言葉に甘えて…」





「あー…槍のお手入れしてたんですか?」
「ああ。最近使っていないからな」

槍頭が、前に見たときよりも綺麗になってる。

「う〜…あったかーい!」

あたしは火鉢の真横に、膝を抱えて陣取った。幸村様とは三歩ぐらいの距離。
ネコちゃんはといえば、幸村様の膝の上。

「……そのネコ、邪魔じゃないですか?」
「いや。むしろ温かい」
「…そーですか……」

……嫉妬してるわけじゃない。
ただ、幸せだなぁ…と思った。

「雪、また積もりましたねー」
「そうだな。まだまだ寒い日が続くからな…また降るだろう」

……だけど、

こんな平和が長続きするわけは無くて、
たとえ長続きしたって、あたしは忍びなわけで、



本当は、こんな幸せは…味わっちゃいけないんだよね…。



「…どうした?」
「………はにゃ?…―!!いえ、なんでも!」
「そうか?ならいいが……」

幸村様は訝しい顔をしながらも、槍のお手入れに戻る。


……なんか…あったかいなぁ…ねむ……。








………………








「…うにゃ……?」

…いつの間にか寝ちった……。

「……幸村様ー?」

部屋は、あたし独りきり。
…えー…?なにかあったの?

だけど、外は静か。
敵襲…とかじゃないかぁ……。

「……あ」

障子の向こうに、見覚えのある人影が現れる。
開くと、やっぱりそれは

「…おや、起きたのか」
「はい…あの、なんか、ごめんなさい……えと、どこに行ってたんですかぁ?」
「あぁ。義姉上が呼びに来られて…これをもらいに行っていた。そなたの分も」

あたしの前に置かれたのは、お椀とお箸。

「うわ〜…美味しそう!」

お椀の中身は、おしるこ。

「……美味しい!」
「…ああ、本当に」

幸村様はにっこり笑った。
あたしも、笑い返した。


…あぁ……やっぱり幸せ。


いつまでも続かないかもしれないけど…続かせるのがあたしの仕事だよね。


「へー、稲ちんこんなの作れるんだぁ」
「こら」
「…あ、ごめんなさーい」






******
9日に雪が突然ぶわーってきたとき速攻で考えた。3時間後には晴れた(笑
…戦国時代にもおしるこはあったのだろうか……?
近年の埼玉じゃ雪は珍しいです。嫌われ者です。

2011.02.11.up


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