仮想空間

□新参者
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今でも、よく覚えている。

「おイチー、おトラー」
「おねね様!」
「どうかしたんですか?」


こいつと初めて会った、あの時のことを。


「うちの人が連れてきた、小姓の佐吉だよ!仲良くね!!」
「…よろしく」

肩に届かないぐらいで髪を切ったそいつは、いかにも"賢い"って感じだった。
だがどこか、子供心ながらに、無理をしているように見えた。

「こっちが市松。で、こっちが虎之助だよ」
「………」
「よろしく…」
「じゃ、あたしは夕飯の支度してくるからね!」

そう言って、おねね様は行ってしまった。
なんだか気まずい空気が流れた。

「えっと…佐吉、だっけか。出身はどこだ?」
「近江の……」
「…!」


「佐吉ー、ちょっと来ーい」


「はいっ」

秀吉様の声が、あいつを連れて行った。

「おい、トラ…」
「んだよ」
「近江って…あの裏切り者浅井家があった……」
「…秀吉様が連れてきたんだ。あいつは裏切ったりしない」
「……なんでそんなにあいつの肩持つんだよ?」
「さぁな。カンだ」

「おトラー、おイチー、お前たちも来ーい」

「はーい!……ほら、秀吉様がお呼びだ」
「…ちぇっ」



「お呼びですか、秀吉様」

部屋に行くと、秀吉様とあいつが将棋盤を挟んでいた。

「来たかおトラ、おイチ!いや、お前たちにも少しは将棋をと思ってな…」
「うへぇ!」
「逃げんなよ、イチ」
「離せよぉトラぁ!」
「二人がかりならなんとか、佐吉に勝てるじゃろ。さ、座れ」

そうやってやった一局は、俺たちの完敗だった。

「あっはっはっは、二人でも無理じゃったか!」
「くっそ…もう一局!」
「ふむ、わしは他用があるからな…席を外すぞ」
「はい!…佐吉、もう一回だ!」
「構わないが…」

手際よく駒を並べ直しながら、佐吉は言った。

「少しは定石を覚えると良い」
「定石?」
「攻めにも守りにも、決まった形がある」
「うん」
「当然それだけでは勝てないが、真っ白なところから戦略を組み立てるよりは…」
「そうか、定石を自分なりに変えていけばいいんだな?」

俺がそう言うと、そうだ、と佐吉は笑った。

「お前は…虎之助、だったか」
「トラでいいよ。こっちはイチ」







「……さあ、詰めろだ」
「ぐっ…」
「待った無しだぞ、清正」
「…畜生……あーぁ、未だにお前のほうが強いんだな、三成」
「お前も強くなった」
「嫌味か?」
「まさか」

俺たちは城の一室にいた。

「……懐かしいな」
「む?」
「お前と初めて会った日が、さ」
「突然だな」
「あの時も将棋を指してた」
「……そうだったな…」

手際よく駒を並べ直す様は、あの時と変わらない。

「正則…イチにはあからさまに警戒されてたな」
「あぁ…あいつは、お前が近江出身だったから…浅井とだぶらせちまったんだ」
「…ならお前は?」
「俺?」
「お前から警戒されていたのにも…気づいていた」
「はは……なんつーかさ…居場所を取られる気がして」
「………」
「でもすぐ気づいた。…お前と俺たちは、領分が違う」

知と武。俺たちが持っていないものを、お前は持っていた。

「…初めて聞くな」
「初めて言ったからな」
「……では初めて言うが」
「お?」


「実のところ…受け入れてもらえるか、心配だった」


「……初めて、ってかなんか、らしくない発言だな」
「…お前たちは元々、秀吉様の親戚。そこに年上の俺が入って馴染めるのか…多少の不安はあった」

少し力無く言う様子を見て合点がいった。
あの時の、どこか無理に自信満々そうなこいつの様子…。

意地を張っていたのか。

「そういえば、あの時お前が先に呼ばれて行ったが…なにか言われたのか?」
「…あぁ。"一局やれば仲良くなれるじゃろ"…と言われた。その通りだったから内心驚いた」
「流石は秀吉様か」
「清正ぁ!探したぜ!」

すぱーん、と開いた襖の向こうから現れたのは、正則だった。

「うるさい馬鹿。邪魔すんな」
「ちょ…ひでぇ!」
「じゃぁお前が指すか?」
「お前には負けた記憶がないな」
「なぁ!?言ったな頭デッカチ!」


正則が玉砕したのは、言うまでもない。





******
朝鮮出兵まではきっとスゲェ仲良かったんだ、という自己設定。
同時に、将棋やらせたら三成が3人の中で一番強かったらいいな、という希望。
最初は関ヶ原後の話にする予定でしたが、あんまりなんかそう、うん、嫌だったので(笑

2011.02.04.up



でもやっぱり関ヶ原後も書いてみた→


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