仮想空間

□天邪鬼
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※甲斐姫の大坂の陣が終わって、ちょっと後の話

「あ!ちょっとあんた!」

城下で見かけたのは、見覚えのある黒い陣羽織が歩いているところ。

「貴様は…あのじゃじゃ馬か。元気そうだな」

あの目立つ兜は被ってなかったけど、右目を眼帯で隠したそいつはまさしく。

「あんたはどうなの、天下の中身ってやつは」
「ふん、貴様に心配されるようでは終いじゃ」
「どーゆー意味よ!っつか、あんた変り身早いのよ!この城を攻めてたじゃないの!」
「何とでも言うがよいわ」
「きーっ!」

マジでムカつく!
声かけなきゃよかった!

「お嬢さん、可愛い顔が台無しだぜ?もっとほら、笑顔!」
「…って、きゃぁぁ!」

ばきッ!

「ぐはぁっ!?」
「ま、孫市!」
「いってぇ…いやぁ、美人なのにいい拳だ。…俺、嫌われてんだなぁ……
「とっ、突然出てこないでよ!」

反射的に殴っちゃった…。
だって本当に無理、嫌な思い出しか無いもの、このタイプには!

「孫市、用件はなんだ」
「いたわろうとか、そういう考えには至らねぇのかよ……秀頼様がお呼びだ」
「む、そうか」
「俺は先に行ってるよ、急ぎじゃないみたいだし。……しっかし痛ぇ、なかなかヘコむぜぇ〜!」

頬をさすりながら遠ざかっていく後ろ姿を睨みつけた。
そしたら、横から笑い混じりの声が聞こえてきた。

「まったく、貴様は本当にあやつが苦手じゃな」
「だって!……だって…」
「あまり怪力姫っぷりを発揮せんほうが良いのではないか?」
「なんでよ?」
「嫁の貰い手が無くなるぞ。……まぁもっとも、しとやかな貴様など想像もできんがな」
「うるさいわね!なによ!さっさと行きなさいよ!!」
「はん、言われんでも行くわ」


それだけ言って、あいつはてくてくと行ってしまった。


「……はぁ〜」
「どーしたの?ガラにもなくため息なんかついちゃって」
「きゃあぁ!」

上から、逆さまの顔。
足を使って、あの子が木からぶらさがっていた。

「政宗様が気になるんだ?」
「う、うっさいわよ!」
「怒んなくてもいいじゃーん…応援するよ?」
「甲斐殿、政宗殿を見かけなかっただろうか?」

後ろからかけられた声に、きっと心臓が一寸は跳ねた。

「ゆ、幸村様…」
「?…どうかなさいましたか?」
「あ、いえ、その、あの馬鹿なら秀頼様に呼ばれたとかなんとか」
「では入れ違ってしまったのか。ありがとうございます」
「いえ!」

赤い姿が、黒い姿を追って消えていく。

「……それで?どんな感じ?」
「どんなって…めったに会わないし、会ったら会ったで言い争い…って!何言わすのよ!!」
「やっぱ好きなんじゃーん」
「うるさーい!…あんたこそ、幸村様とはどうなのよ?」
「知ってるくせに…」
「幸村様、鈍感すぎるわよねぇ…」
「慶次様に励まされたこともあってさ…」
「あちゃー…」






「政宗殿!」
「幸村…すまぬ、手間取らせた」
「いいえ。さ、こちらへ」

幸村の案内で城内を進んでいると、横から孫市がひそひそと話しかけてきた。

「…で?どうなんだよ、政宗」
「なにがじゃ」

ニヤけた声を出しおって…。

「なんだよ、とぼけんなよ」
「だから、なにがじゃ」
「…え、マジか?」
「…………うるさい」
「……素直に気になってるって言えよ…」
「…あとで覚悟しておけよ、孫市」
「なっ!?怒るこたぁねぇだろ…」

あのじゃじゃ馬め…。

「黙っておればそれなりに…」
「それなりに?」
「…なんでもないわ!」






******
甲斐姫の大坂の陣での「武運を…祈っておる!」にときめいたのは私だけじゃないと信じたい。すごく元気が出たもの(私が)。
…でも、甲斐姫って秀吉の側室なんですね。側室持ちすぎじゃないか、秀吉…。

2011.01.05.up


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