仮想空間

□休息
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「……――、殿!起きてくださいってば!」
「………む」

次に目を開けた時、まず目に入ったのは自分が積み上げた半紙。
その奥に、左頬に傷がある顔が見えた。

「……左近か…」
「まったく、また徹夜してたんですか?体がもちませんよ?」

そう言いながらも、左近は毎朝容赦なく俺を起こしに来る。
そう頼んであるからだが。

「大丈夫だ」
「そう見えないから言ってんです」
「…秀吉様への謁見の時間まで、あとどれくらいある」
「身だしなみを整える程度にはありますよ」
「そうか。……顔を洗ってくる」

立ち上がり、襖を開ける。と、


「おはよう、三成!」


「お、おねね様……おはようございます」
「隈がヒドくなってるよ、三成」
「大丈夫です、このぐらい」
「だーめ!」
「いたっ」

ばしっ と小気味良い音と共に、額に衝撃が走った。

「…実力行使はやめてください」
「三成は、今日明日は仕事禁止!」
「は…!? 何を馬鹿な…」
「体は大切にせんとな、三成」
「ひ…秀吉様……」
「お前はよう働いてくれとる。働き過ぎじゃ。そういうわけで、今日から2日は休暇じゃ」
「し…しかし、それでは結局仕事がたまることに……」
「俺が代わりにやっときますよ。あっちは片付きましたから」
「左近…」
「三成!少し付き合え!」

そこに突然現れた2人に、心底面食らった。

「兼続!? 何故お前がここに…」
「ささ、早く!」
「幸村まで…待て、袖を引っ張るな兼続!」

一体、朝から何だというのだ!!





「…いつこちらへ来た?」
「昨日の宵の口だ」

俺は、城下に連れ出されていた。

「ならば、顔ぐらい見せろ」
「仕事の邪魔をしてはいけないかと思いまして」
「遠慮など…」
「だが実際、あの後ろ姿は話しかけづらいぞ?」
「む……それは、すまん」
「まぁまぁ、今日は仕事のことは忘れましょう、三成殿」

からりと笑った幸村が言う。

「せっかくの休暇です。思いきり羽を伸ばしましょう」




その日は昼間中ずっと、2人と過ごす羽目になった。

帰ったのは、陽が山の向こうに沈んでいく頃だった。

「……は」
「三成おかえりー!」
「いや、あの………」

笑顔で出迎えてくれたのはおねね様。
ぐいぐい引っ張っていく手を振りほどくことも出来ずに、行き着いた部屋は大広間。

「…何事ですか……?!」

いつもと違う。
何故こんなに…豪華な食事が…。

「良く働いてくれとるからのぉ、今日はねぎらいじゃ!」
「俺などのためにこんな、勿体無い…」
「なぁに、どうってことはない!さ、座れ座れ!」
「いや、あの」

秀吉様に上から肩を押されて座らせられる。

「ちなみにな、このへんの肉類は全部清正が狩ってきたものじゃ」
「清正が……」

その当人は俺から少し離れたところで腕に巻いた包帯を気にしていた。

「お前……」
「なんだよ、そのシケたツラは」
「……いや…」
「いーから。ほら、飲め」

俺の前まで来て、無理矢理に猪口を持たせ、勝手に酒を注ぐ。

「さぁ、飲みましょう!三成殿」
「酒は百薬の長だ。今宵ぐっすり眠り、もう一日ゆっくりすれば、疲れなど吹っ飛ぶだろう」


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