仮想空間

□休息
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「……ん?」

襖の隙間から、廊下へと光が漏れていた。
そっと中を覗くと、肩口まで伸ばした茶色い髪が見えた。

「……三成」
「む…清正か、何用だ」

三成は振り向き、半紙を持っていた手を机の上に置いた。

俺は部屋に入ると、三成の左に腰を下ろした。

「もう子の刻だぞ?いい加減、床についたらどうだ」
「あぁ、これが終わったらな」
「これって…それか?」
「そうだ」

三成の指す"これ"とは、2寸ばかりに積み上げられた半紙の束だ。

「一体何だ、それは」
「各地から届いた検地の結果だ。これは俺が言い出した事、あだやおろそかにはできん」
「それは解るが…最近お前、隈が酷いぞ。毎日きちんと寝ているのか?」
「大丈夫だ」

そう言うと、三成はまた半紙に目を通し始めた。

「……その勤勉さにはまったく、恐れ入るよ」
「俺はお前のようには武勇を誇れないのでな」
「…そうか。邪魔したな」
「いや」

俺は立ち上がりながら言った。
三成は、こちらを横目にすら見ずに答えた。

「寝ろよ、ちゃんと」
「これが終わったらな」





明け方。
いつもの時刻に目が覚め、いつもの廊下を通る。

そこには、昨夜の部屋がある。

「……まさか、な」

さすがに、あの程度の量なら夜のうちにさばききっただろう。
と思いつつも、つい三成の部屋を覗き見る。

「……馬鹿が…」


机に突っ伏している背中が、見えた。







「……ふぅ…」

今日の分の書類を見終えたのは、鐘が七つ成り終えた頃だった。

左近には別件を頼んでいる。
そちらが片付くまでは、こちらは俺一人でさばかねばならない。

昨夜は清正が来たが、今夜は誰も来なかった。無論、来訪者があるほうが珍しかったのだが。

「……まだ、少し寝られるな」

そう思った瞬間、ゆっくりと机に頭が落ちた。
最近は睡魔に負け、こうして寝てしまうことが多い。

無理はしていないつもりだ。
周囲から隈が酷いと言われるが、事実、体調は悪くないのだ。

「………眠い…」





そうつぶやいたところまでは、覚えている。


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