不幸なあなたに花束を

□5th:差しこむ光
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「ここだ」

おもむろにポケットから鍵を取り出す。
ガチャリ と錠の外れる音。

「…ん」
ガチャ とドアを開けて、連れを招き入れる。

「お邪魔しまーす!」

秋山の部屋に、直が訪れていた。郊外のアパートの2階。
しつこく食い下がられ、彼が根負けした形だ。

「なんだか…スゴいですね」
「そうか?」

部屋に入って最初の会話は、こうだった。

「モノクロっていうか…ズバリ黒、って感じがします」
「この方が落ち着くからな」

後ろ手にドアを閉めながら、秋山は言った。
直の部屋とは対称的に、全く色味のない部屋。さらに、明度すらも極めて低く家具も絨毯も統一されていた。
もちろん窓からの採光はあり明るいが、雰囲気としてはやはり直の言うように、"黒"だった。

「…私は、なんだか落ち着かないです」
「…………そうか」


それは、お前が白いから。


そんな言葉を、秋山は飲み込んだ。

(心まで真っ黒なオレにはお似合いだろ?)

自分を嘲るように、口の中で呟く。

「うーん、慣れるのに時間、かかりそうです」
「慣れるのにって…これからも来る気か?」
「いけませんか?」
直はにっこり、笑って聞いた。

(また、そんな風に笑って…)

秋山は、直の笑顔は好きだったが、同時に苦手でもあった。

「居心地の悪い部屋に何度も来るバカは少ないと思うが」
「います、ここに!」
「…………はぁ〜」

おりしも今日の彼女の服装は、白地のワンピースにグリーンのカーディガン。

(白くて…綺麗だな、お前は。心も、目の光も言葉も、全部。オレは…なにもかも真っ黒だ)


「そういえば」


直の声で、彼は我に返った。

「この前は、本当になんでもなかったんですか?」
彼が葛城にまんまとハメられた、あの夜のことだ。
「この前……あぁ、別になにも」
直をソファに座らせ、キッチンでティーパックを1つ取り出しながら、彼は言った。
「本当ですか?だいぶ焦ってるように見えましたけど」

(なんだか、秋山さんじゃないみたいでしたよ?)

なんとなく、直はそう言えなかった。
秋山はカップを2つ、テーブルに置く。さすがにカップは白だ。

「……でも秋山さんって」
「ん?」
紅茶をひとくち飲んで、直は口を開いた。
「黒、似合いますよね」
「…そうか?」
「はい。黒いシャツにスラックス…似合ってます!」

それは、今日の秋山の服装だった。

「うーん、なにか白いものを一個置いたら、部屋が明るくなると思うんですけど…あ、別に改造するつもりは…」

私が慣れます! と頼もしく宣言する直を、秋山はコーヒーを飲みながら見ていた。

(…お前だけで、十分だよ。眩しくて落ち着けないんだから)

「…どうしました?」
「いいや…お前に黒は似合わないな、って思ってな」
「そうですか?」
「あぁ」

(だから、真っ黒なオレは、真っ白なお前にはさわれない)

「うーん、確かに黒はあまり着ないですけど」


ズキン と音がした。


(自分で言わせた言葉で傷つくなんて、どこまで愚かなんだオレは)

「あぁでも、今日みたいに白はよく着ますから、
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