不幸なあなたに花束を

□5th:差しこむ光
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「今日は、ありがとうございましたっ」
この前とは逆に、直は駅で送られる側。
「あぁ」
そして秋山が、彼女を見送る番だった。

直は数歩、改札に向かって歩いた。
が、少し立ち止まってから、また秋山のところに戻った。

「どうした?」
「……あの時、なにかあったんですよね?やっぱり」
「しつこいな、なにも無いって」
直は秋山を見上げた。秋山は真っ直ぐな眼差しを受け止めた。
「…私、今でも秋山さんに迷惑かけっぱなしですね」
「……………」
「なにがあったか知らないですけど…心配してくれたんですよね。ありがとうございました」
ぺこっ と頭を垂れる直。

彼女が彼に感謝を述べるのは何回目だろう。
詐欺師に正直者がお礼を言う、なんとも奇妙な光景。


それが当たり前になりつつある、名前のない関係。


秋山は、苦い顔をして言った。
「……礼なんかいい」
「でも」
「お前も散々傷ついただろ、あのゲームで。これからは、自分の幸せを考えろ」
「私の幸せですか?そうですねぇ…」
うーん、と唸る直を横目に、秋山は自分の望む答えを待った。

(オレなんか忘れて、普通の世界で普通の幸せをつかめ)

「…じゃぁ、また秋山さんの家に行きたいです」
「…な」
「あと、また遊びに来てください」
「……おい」
「それから、またお料理食べてくださいっ!」
「………お前」
秋山は、複雑な表情をしていた。
「……いいのか」
「なにがですか?」
「そんなんで」
「十分幸せです!」

(…そんな風に笑うなよ)

「本当にバカだなお前は」
「あー、またバカって!今日バカバカって言い過ぎですよ!」
「悪い、ついな」
口元に手をあてて、くっくっ と秋山は笑った。

(今、自分が何を宣言したのか、わかってるのか?)

「あ…電車が!あのっ、じゃぁ…」
「あぁ、転ぶなよ」
その言葉を聞いて、直はぷくっと頬を膨らませながら、改札の奥に消えていった。




…………‥・




「…オレがいれば幸せ、か」
秋山はソファに腰掛けて呟いた。
先ほど、直が語った"自分の幸せ"を完結にまとめると、まさにそうだった。
「………あぁ…」

自分で自分を傷つけて。
自分が傷つくだけ、彼女が幸せになれるなら。

(それでいいと思っていた)

だが、自分が自分を傷つけるだけ、彼女も傷ついていく。
自分より深く傷ついていく。

(それは………)




「………嫌、だ」




彼の部屋には、光が差し込んでいた。







2010.07.23up
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