幼妻部屋

□いきなりピンチなんですが(前)
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遊びに行っていい?と同僚の一人、隣のデスクのミケランジェロから声を掛けられたとき正直言ってオレは固まった。
そりゃあもう、釘でも打てるくらいに。

困る、と言う前にもう一人の同僚、ミケランジェロの隣のデスクのドナテロが「僕も行こうかなー。」なんて言うもんだから、一気に全身が冷や汗でびしょびしょになった。


「んじゃ、決定!今日の帰りにビール買って直行で!!」
「どうしたのレオ。汁が出てるよ汁が。」
「や…あの…。」

まずい、これはまずい、ピンチだぞ。
だってもう退社時間で、家にこっそり電話する暇もない。
第一、今電話したところで内容がどことなく聞こえるだろうから、下手なことを言えば怪しまれることになる。
だからといって、回りくどくいってもラフが分かってくれるとは思えない。

自分の顔が引きつっているのが、鏡を見なくても分かるくらい動揺していた。
いつかはこんなことになるんじゃないかと薄々感じていたけれど、まさかこんなに早く、しかもこちらに反論の隙を与えないとは。

絶体絶命。

でも、とりあえず連絡はしておかないと。

「ちょっと家に電話するから先に行っててくれないか?」
「あれ、レオって一人暮らしじゃないの?」
「いいよ、オイラたち待ってるから。」

なんとか一人で電話したかったのに、それもアッサリかわされ、しかも自ら墓穴を掘る始末。

軽やかな呼び出し音の後、すぐに電話は繋がった。

「もしもし。オレだけど…。」
「レオ!……もしかして、かえるのおそくなるのか?」

慌てて電話まで走ったのだろう。
荒い呼吸の後に嬉しそうな声、少し間を置いて不安そうな声。

「いや、ところでもう、ご飯作っちゃってるか?」
「まだ。」
「今から友達二人が家に来るんだけど…。」
「レオ!ともだちいたのか!!」

失礼な、と思わず顔をしかめた時、横合いで盛大に吹き出されハッとすればミケランジェロがオレの携帯の反対側に耳を当てて笑っていた。
ドナテロもにやにやと笑っている。

ラフとの通話は喋る音量が大きかったせいで丸聞こえだったらしい。
ともかく、用件は伝えなくては。

「…だから何かつまみを…ああ、この間の枝豆おいしかった。また作ってくれないか?」
「!!わかった!それじゃーな。」

顔が見えないからそんなに恥ずかしくないのか、電話だとラフは随分デレになる。
これもまたよし、と電話を切ってからふと我に返った。

目の前には似たような笑顔を浮かべている二人。

「やー、スミに置けないねーレオも。」
「そだねー、“おいしかった、また作ってくれないか?”だって!きゃー!」

やけにソックリに声真似され、そんな口調で言ってたのかと恥ずかしくなる。

「お、照れてるのかなぁ〜?」
「違う!」
「ムキになるなんて、ますます怪しいんじゃないの?」

まずい、誤解されている。
ラフの声が聞けたのが嬉しくて、ついそっちに集中してしまっていた。

「付き合ってる人がいたんなら、もっと早く僕らにも教えてくれたらよかったのに。」
「ねー、レオー。そのこ可愛い?」
「だ、だからお前らの想像とはホント一切違うから!!」

勝手に進む会話に、オレの叫びが虚しく響いた。

電車から降り、近くのスーパーで適当にビールを買う。
ラフの分にリンゴジュースも買って、街頭の明かりがともる住宅街を歩いた。

もうすぐ家に着いてしまう。



END

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