Actual×Dream
□はじまりD
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「三橋・・君、ちょっとさ、投げてみない?」
あああ阿部君が!
阿部君が、三橋「君」て言ってるよ。
うわ、これ貴重。
しまった、ムービー撮っておくんだった。
とかくだらない事を考えていると、
「オ・・オレ、も、や・・やめとき、ます。」
三橋君が俯いたまま泣き出した。
「・・泣かすようなこと言った?」
突然泣き出す三橋君に驚き、隣にいた泉君に尋ねる。
「ううん。」
泉君は首を振る。
だよね。
どこの世界に、ちょっと投げてみないかって言われて泣く奴がいるってのよ。
私は三橋君の辛い過去とか知ってるけど、現時点で何も事情を知らない皆が驚くのは当然の結果。
「球・・遅い・・から。」
「んな的外れな期待はしてないと思うけど。補欠だったの?」
阿部君の問いかけに、三橋君は首を振る。
「ね、遅くたっていいんじゃない?球の速さだけがピッチャーの良し悪しじゃないと思うし。」
私がそう助け舟を出すと、三橋君が目をぱちくりさせた。
ああ、今の三橋君の思考、手に取るようにわかってしまう。
きっと今、彼は私の事「いい人!」って思ってるはず。
三橋君にとって、自分に少しでも優しくしてくれた人は皆いい人、なんだよね。
三橋君らしいというか、なんと言うか。