宝物
□誓いはずっと、続いてく
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百合は人の手を借りることをしないが、さすがに結婚式ということで紅家の侍女
に身支度を手伝ってもらった。
そのあとひとりの侍女に頼みごとをした百合は、ほかの侍女にもひとりにしてほ
しいと頼んだのだ。
百合は鏡台の前に座り、鏡に映る自らの姿を眺めた。
紅を基調にした、百合の花模様が施された百合のためだけの婚礼衣装。
自分は、紅黎深の妻となる。百合にとって、それは本当に嬉しいことだった。
幸せでいっぱいなはずなのに、百合の心には暗い影が差す。
やはり、ひとりになってしまったのがまずかった。
忘れていたはずの想いを、思い出してしまう。不安が、胸を貫く。
思わず目をつぶり、顔をうつむける。膝の上に乗せた手のひらをぎゅっと握りし
める。
と、室の扉が叩かれる音が耳朶を打った。百合はばっと顔を上げて、慌てて笑顔
を取り繕う。
「何かしら?」
そんなことはわかりきっていたけれど、形式的に誰何する。
「失礼いたします」
扉が開かれると、見知ったひとりの侍女と小さな絳攸の姿があった。
「絳攸様を、お連れいたしました」