彼女は綺麗だった。



けれどもシーツの上に無造作に投げ出された白い腕は、何に関しても丁寧だった彼女のものとは思えなかった。
喉がからからなった。


俺が悪かったのか、それなら思い切り責めてくれ。思い切り。
彼女は優しいから、きっと俺ではなく自分を責めて謝るのだ。
ごめんなさい、と。

それからしばらく俺は彼女の肌の白さや色素の薄い髪を眺めていたけれど、白い布の下の、一番綺麗だと思える彼女の顔を見ることは出来なかった。

四角い目の痛くなるような真っ白い部屋の中は、相変わらず消毒液の匂いが充満している。
静か過ぎて耳がきーんと鳴った。

空気は冷たかった。
沈黙が痛かった。
彼女の腕の裏側はこんなに白かっただろうか、そう思ったら鼻の奥がつーんとして、思い切り息を吸い込んだら苦しくなって、そのまま咳き込んだ。

ついに握ってやれなかった彼女の手を自分の両手で緩く包む。
彼女の手は思ったよりも小さく、強張っていた。

今更だ、と思った。本当の本当に。
彼女を突き放したのは自分で、やっと幸せにしてくれる誰かを奪ったのも自分で。
気付かないふりをしていた。
今になって言いたいことはたくさんあるのに、言い訳なら考えてあるのに、肝心の彼女がいないのだ。欠けている。





自分の手から、握っていた彼女の左手がするり、と抜けた。










『 わたしも、つれていって 』




















白い煙突から白い煙が揚がっている。
それがようやく消えた頃、彼女の体が小さな扉の奥から出てきた。

彼女は真っ白い姿をしていた。
何よりも白い白だった。
俺はそれをとても綺麗だと思う。
もう一度煙突を見上げると、その上の空と彼女の区別がつかなくなって無意識のうちに彼女の輪郭をなぞっていた。

























あなたが隣にいない理由
(すべてが、白い、)




















(   、)
土→ミツ
080323

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