星霜
□星霜W
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刀@お願いだから…
「さあや!お願いがあるの!」
「何ですか?」
「あの…ね…。それ!いい加減にして!」
「それ?」
姫が指差した方へと視線を辿れば、そこにさあやに背中から抱きついている背後霊、もとい幸村がいる。
「人を指差すなよ」
さあやが反応する前に、幸村が不快げに姫の人差し指を掴んだかと思えば、素早く振り払っていた。
「この精市に!もう抱きつくなっ!て叱ってやって!」
それに怯んだ様子も挫けることもなく姫は訴える。
「メッ?」
「──可愛い」
さあやは分かっていない。 しかも言ってはみたものの、逆に喜ばせてしまう結果になった為、全く効果は見られない。
「さあや〜っ!」
「?…精ちゃん。今日は姫にもしてあげなさい」
姫は分かってほしいと泣きつくが、さあやはやっぱり理解せぬまま、今日も斜め上に解釈し、幸村を促した。
「えっ!?」
「嫌だよ。俺はさあやだけにしかしない」
目をみはり、驚いている姫を無視し。そう言って、また幸村は笑顔でさあやを抱き締める。
「ずるいよ!精市ばっかり!」
「精ちゃん。人前でするとまた誤解されますよ?良いんですか?」
姫の不満気な声を受けたからか、さあやはようやく溜め息まじりにたしなめにかかる。
「誤解じゃないから良いよ」
「?それなら構いませんが…」
あっさり納得してしまった。
彼女は最初から強く言うつもりもなかったらしい。
「諦めちゃ駄目!ちゃんと叱ってっ!」
「…そう言われても叱る理由がありません」
姫が応援しても、困った様に苦笑いを浮かべつつ、答えを返すだけ。
「さあやを困らせないでくれるかな?言いたい事があるなら、自分で言いなよ」
──否、貴方が原因なのですが。
「さあや以外の言葉なんて聞かないでしょう!?」
「そうなの?」
「そんな事ないよ」
「あるでしょ!?」
「…まぁ、精ちゃんは頑固だから」
さあやは呆れたのか、どうでもよくなってきたのか、姫の怒りをよそにさっさと話をまとめにかかっていた。
「じゃあ何でさあやの言う事は聞くのよ!?」
「さあやだから。」
「私、だから?」
それが当然とでも言う様に姫の問いに答える言葉は共に同じ。
「それだけじゃ分かんないっ」
「もう良いだろ?邪魔するなよ」
「姫」
「なぁに?」
「また後で。遊びましょうね?」
「うんっ」
さあやににこりと微笑を向けられれば、途端に姫は機嫌を直し、笑顔を浮かべる。
「あ。姫、誰かに呼ばれてますよ」
「え?ちょっと行って来るね!」
さあやが指差した先へ、慌てて走り去る姫。
その場で確かめればそこに部員は確かにいたが、誰も彼女を呼んでなどいないこと位、すぐに解るものなのに。
「──あしらうの巧いね」
それに気付いている幸村は苦笑いを浮かべながら呟く。
「ふふ…精ちゃんで慣れてますから」
「どういう意味かな?」
── さあやに丸め込まれてしまえば、誰も敵わない。というオチ。
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