星霜

□星霜U
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『幸村と姫はライバル?』



───  一年程前の話


 それ。は週に一度、中庭で見られる立海大付属中学校の日常。ある仲が良さそうな女生徒達の昼食風景だ。
 昼休み。天気もいい時には、教室だけでなく外にまで出て、あちらこちらに場所を選び、仲間達や友人達のグループに別れて持ち寄った昼食を手に会話を楽しむ。



「さあやっ!私の玉子焼き食べる?」

「うん。じゃあ姫に唐揚げあげるね〜」

「ありがとうっ」

 にこにこ笑い合う二人の女生徒は仲良く、否、親友…と呼ばれる関係、の筈。
 まぁ、とにかくそれぞれ持参したお弁当を広げ、好きなおかずを見つけて交換しつつ、食べていた。



「あ〜ん!」

「…」

 差し出された躊躇い、視線をさまよわせて戸惑ったが、さあやは口を開ける。と口に放り込まれる玉子焼き。


「どう?美味しい?」

「──うん」

 卵焼きを咀嚼してからほわりと笑う。


「じゃあ次は私にも…」

「…え。あ、うん…あ〜ん?」

「あ〜ん。──ん〜〜っ!」

 唐揚げを開けた口の中に放り込まれ、口を動かして咀嚼しながら、姫は嬉しそうな声を上げる。



「美味しい?」

「…うんっ!さあやの愛情が入ってて!」

「ママの愛がたっぷり入ってるから」

「そうなんだ〜」

 にこにこ嬉しそうにさあやが笑えば、姫も笑い返す。少々会話がずれている気もするが、いつものことなのだろう。
 お互いそれを気にした様子もなく、穏やかな昼食タイムを過ごし楽しんでいる様だった。






+++++


 ───  放課後


「──」

 週に一度、放課後の部活になっても幸村はとても機嫌が悪い。

 皆…仲間達は姫が昼休みに現れなかったせいだ、と思っている。

 何故なら、姫がいない昼休みは自分達も寂しい思いをさせられ、多少の違いはあれどちょっぴり機嫌だけでなく空気までも悪くなっているからだ。





「〜〜〜♪」

 だが、その原因である筈の姫は上機嫌だ。幸村の機嫌が悪いのを目撃しても、目が合っても、気付かないのか、わざとなのかにこりと笑って顔を逸らすだけだ。





「凄ぇな。姫…」

 たまたまそのタイミングを目撃して苦笑いしてしまう。

「何かいい事でもあったのか?」



「…週一、か」

「仁王くん?」

「ちょいと調べてみるかのぅ」

「やめておけ」

 何かに気付いたのか、仁王の好奇心を刺激したらしいが、それをすぐに制止したのは、いつのまにか隣に現れていた柳だった。


「参謀。何か知っとるんか?」

「──」

「教えてくれんかのぅ?」

「──無理だ」

「どうしてナリ?」

 仁王はますます気になって、にやにや笑いながら顔を逸らした柳を問い詰めようと──


「聞きたい?」

「ゆ、幸村!?」

 背後に立っていた幸村に驚き、仁王は飛び退く様に一歩後退した。心臓に悪い。彼らの話をいつから聞いていたのやら。

「精市…」





「聞きたい?」

「あ、ああ…」

 幸村に重ねて問われて何か裏があるかもしれない、と怯みながらも好奇心には勝てなかったのか仁王は頷いた。


「──ふ〜ん?どっちの理由がいい?」

「?」

「俺が不機嫌な理由。と──姫が上機嫌な、理由」


「知っとるんか?」


「今日のメニュー。2倍」


「…姫が上機嫌な理由を教えてくれんか?」


 出された条件はきついが、頑張ればこなせないことはない。何より思わぬところから姫絡みの情報が得られそうな話が出てきた。聞かない、という選択肢は選べなかった。



「…姫はね。親友、とお昼を一緒に食べてるんだよ」

「親友?女か?」

「…フフ。姫はそれが嬉しいみたいだよ」

「幸村!話はまだ…!」

「後は姫に直接聞いてみれば良いよ。…話さない、とは思うけど、ね。」

 意味深な言葉を残して幸村はにこり、と笑い立ち去ってしまった。


「──高い情報料じゃのぅ」


 結局、その答えは得られぬまま時は過ぎ。忘れた頃に幸村によってその親友の存在を皆の前で紹介されるまでずっと秘され、明かされることはなかった。






「のぅ、参謀」

「俺からは言えない」

 そしてそんな幸村の意向を受けた柳もずっと黙秘し続けた。

「フフ…」

 時折、幸村から向けられている笑顔の威圧に脅えた様子を見せながら。






 R陣が興味を持とうとする度、意識を他に逸らす。
 さあやに近付こうとする邪魔な存在は絶対に阻止する。


 ──それは幸村と姫、二人に共通していた意識。





 姫が時々、さあやの家へ招かれて遊びに行く度、幸村が邪魔をする様に現れ、時折喧嘩しながらも三人でなんだかんだ楽しく一緒に時を過ごしていたのは、また別のお話。


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