星霜
□星霜W
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「──う〜ん」
「さあや?」
「週明けまでは待ってあげるつもりだったんですが」
「何を?」
「──少し黙っていて下さい。さあやは今、真剣に悩み中です。」
さあやは不満気に振り仰ぎ答える。視線が合うのは当然、幸村だ。
「休憩時間なんだけど?」
「だから悩むのです」
幸村に膝枕をさせている状態で悩んでいる様には見えないし、それにわざわざ答えられる様なら真剣でもない気がするが。
これでも本人は言葉通りに悩んでいる──つもりだ。
「意味分からないから。俺を構ってよ」
「あ、冷凍庫にアイスを入れて来ましたよ」
「…そう」
「精ちゃんのはレモンとミント味です」
「──また勝手に選んだんだね」
にっこりと笑うさあやを眺めながら、幸村は諦め気味に呟く。いつものこと、で流すつもりらしい。
「今ならまだ変更可能」
「…別にいいよ。家にもまだあるし。さあやと家で食べる」
「あ、昨日ケーキを…」
「捨てろよ」
思い出した様な声には、ばっさりと笑顔で遮って断る。
「──紅茶の葉と一緒に頂きました」
「あ、それは飲む」
「…クッキーは?」
「いらない。あ、そろそろ結構溜まった頃だろうし、一度全部処分してしまおうか」
いい案がある、とばかりに笑顔で提案する。
「え?」
「何のためにワカメとブタがいると思ってるんだい?」
「えーと?お味噌汁とお肉になる為…?」
少し考えつつ答える。抽象的な表現すぎたのか、さあやには正確に言いたいことは伝わっていない。伝わったところで無関心気味な彼女がそれを気にすることもないだろうが。
「フフ…今夜は生姜焼きと味噌汁がいいなぁ。作って」
「おばさまが作られ…」
「俺が食べたい物が優先」
「…夕飯はコロッケに」
「作るよね?」
さあやの目が泳いで逃げようとしたが、しっかり顔を捕まえ、視線を合わせる。
強引さでは幸村の方が上?
「──酢の物は体に良いのです」
「じゃあそれも」
「…ワガママ」
追加された要求に苦笑いを浮かべながらも、頷かなくても言いたいことは伝わって。幸村が浮かべた笑顔に、結局はさあやの方が折れて要望は通ってしまった様だった。
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