星霜
□星霜W
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「あ、他にもいる?ケーキとかゼリーとか…和菓子とか」
「え!?」
「他にも好きなお菓子とか…ない?」
さあやに尋ねられ、遥は言葉に詰まった。聞かれても困る。
「遥、甘い物嫌い?」
「好き、ですが…。あの…わざわざ買ってきてまでは…」
ちらりと冷蔵庫に目を向ける。 先程、冷凍庫に移されたばかりのアイスを気にしていた。
「?…あぁ、あのアイスは貰い物だよ」
「えっ、あ、そうでしたか。もうあれだけで十分ですっ」
「──そっか。分かった」
慌てて遠慮の言葉を口にした遥に、何故かさあやは悲しそうに頷いた。
「あの…ママ?」
それが気になり、背を向けたさあやを思わず呼び留める。
だが、さあやはそれ以上何も言う気はないらしかった。
「着替えてくる」
「あ、はい…」
+++++
「──はぁ〜」
「あ、あのー…おねえさま」
「はぁ…え?御免なさい。何かしら?」
洗濯機に向かって立っていた姫は、恐る恐る掛けられた声に気付いて振り返り、何度目かのため息を引っ込めて、笑顔を返す。
「あの…それ…粉の量が多いのでは…?」
「粉?──あれ?もう空だわ…確か開けたばかり……ま、まさか…!」
動き続けている洗濯機の蓋の隙間から今にも溢れ出そうとしている、泡。
適量を入れていたならばそんなことが起こる筈はない。
「っわ、私…一箱入れちゃってた!?」
「──見てはいませんが」
慌てる姫を眺めつつ、遥は困惑気味に答えを返す。
「っっど、どうしようっ!?あ、あの、また洗い直せば分からないわよねっ!?」
慌てながらも結論を出し、洗濯機のボタンを操作し、コースを変更させて、すぐに水を抜く。
「あ!遥ちゃん、倉庫に行って次のメニューの準備を…」
「…終わりました」
次の指示を出せば、逆に申し訳なさそうな答えが返ってくる。
「そ、そうなの!?じゃあドリンクボトルを洗いましょうかっ」
「──あの、これからドリンクを配る予定、なんです、けど…」
「えっ!?もうそんな時間!?私何もやってないのにっ」
「──すみません」
「ううん!私こそ御免なさいっ。運ぶの手伝うわねっ」
「…お願いします」
慌てて駆け出した姫の後を追う様に足を動かす。
走ることはしなかったが、姫の背中を見つめる遥の表情は曇っていた。
「皆〜!休憩時間よ〜っ」
「姫先輩っ」
「姫っ」
部員全員が姫の声に反応し、更にレギュラー達が嬉しそうに我先に駆け寄っていく。
姫だけが愛される。
それは覆ることのない、現実。
裏方の仕事は部員達には見えないこと。
だが、姫が今まで一人でこなし、部員全員を支えてきた実績がある。信頼して任せているから、今更それを疑うものなど、ここには誰もいない。
だから、気付かない。
だからこそ、気にしない。
変わらない毎日など、ありはしないのに。
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