Novel

□恋、音色 18
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恋、音色 18

「リン、何が食べたい?」
「リンミカンが食べたい!」「はいはい、目玉焼きねー」「ええー!?ミカンも食べたいよー!」

あれから随分と仲良くなった。
すでに真由と話すような関係になるほどまで。
リンは今日の午後あたりにレンは帰ってくると言っていた。
正直、待ちどおしくて仕方がなかった、というのはリンには内緒で。

私は冷蔵庫から卵とソーセージと野菜を取り出した。リンは私が貸してあげたパジャマから私が貸してあげた洋服に着替え中。
あの格好も可愛いけど、私の服を色々と着せてあげても可愛いと思うんだ。
本当はレンにも着せてあげたいんだけど、絶対いやがるのが目に見えるしなあ。
「マスター!リンも手伝いたいっ」

着替え終わったらしく元気のいいリンの声が聞こえる。
あ、やっぱり可愛い。
やっぱ元が可愛いからかな。
自分が着ていた時よりも一段と可愛く見える、というか。この服の可愛さが引き出されるというか。

「何か手伝うことある?」
「そうだなー。じゃあ、野菜洗ってくれる?」
「うん!」

やっぱり包丁とか火はまだ危なっかしいので手伝わせることはできないけど、リンは喜んで野菜を洗うことを引き受けてくれた。
そうだな、今度レンにも手伝ってもらって三人で料理作ろう!

あ、なんか私さっきからレンのことばっかり。
あれ。
レンが戻ってきたらリンはどうなっちゃうんだろう…

レンの代わりにリンは来たんでしょ。
だったらレンが戻ってきたらリンは前の家に戻っちゃうのかな。
きっと他のマスターがリンにはいるはずだ。

「ねえ」
「んー?」

楽しそうに野菜を洗うリンは鼻を鳴らして答えた。
私は卵を取り出して、フライパンを手にした。
「レンが戻ってきたらリンは今のマスターのところに戻っちゃうの?」

リンの手が止まる。
あれ、どうしたんだろう。
下ばかり見て手が動いていない。
「リン...?」
「んーと、わかりませんっ」

笑顔に戻ったリンだけど、どこか寂しげというか
いつものリンじゃない。
不安になった。リンのマスターにも何かあるのだろうか。
でも私なんかが口出しして良いことなのかな。

「そ、そっか。」
「でも、レン多分、今日帰ってくるよ」

今日、帰ってくる!?
え、なんか凄く緊張してきた。
でも嬉しいのは確かだ。

「嘘!?」
「本当だよー」

あははっと眉を顰めて笑うリン。
どうしたんだろう。やっぱり嬉しそうじゃない。
「…マスターはさ、レンが帰ってきたらリンのことどうする」

目を見ないで野菜を洗い続けるリン。
「どうする、って?」
どういう意味だろう。

「リンのこと、追い出す?」
やっとこっちを見てくれた。
でも、表情はさっきと変わらない。
追い出す、って。
この家からリンを?

「まず、それはないよ」
「へ?」

間抜けな声が耳に通る。
「だって家族って言ったでしょ?家族追い出すほど私も酷い人じゃないよ」

できれば、ずっといてほしい。
リンとせっかく仲良くなれたんだし、ずっと一人暮らしだったから正直言って、少しは羨ましかったんだ。
大人数の家族。

「マスター…」
「ね、だからそんな顔しないの!」
リンの御でこに軽くでこピンをする。
リンは「うっ」と片目を瞑った。
「わかった!」

にっこりと戻ってきた笑顔。
うん、リンに似合ってる。
「マスター洗いおわったよ!」
「ありがとー。こっちも目玉焼き完成だから、盛り付けも手伝ってくれる?」
「うんっ」

これが家族っていうのかな。
私に妹がこんな感じなんだろう。
なんか、楽しい。安心する。

***

「ねえ、リン」
「なーにー?」

ご飯を食べ終わって片付けをしていたとき。
不意に頭を過ぎったことはレンのことだった。
「レンってさ、今日の何時ぐらいに帰ってくるの?」

何気なく言ってみた言葉だったけど、リンは又動きが止まる。
「うーんと、午後2時くらい、かな」
「あと20分!?なんか緊張してきたっ」

待ち遠しかったことだけど、いざとなると緊張するものだ。
久しぶりだからなー。レン、どんな態度とるかな。
レンと会ってない期間は2週間と少し。
毎日会ってたから2週間も長く感じる。

「嬉しそう、だね」
「そりゃあね。リンも嬉しいでしょ?」

あれ。なんで黙っちゃうの。
「…うんっ、嬉しいよ」

少し間をおいてからリンが笑う。
何、その間は。何か意味があるの?

そんなことを考えていたら時間があっという間に過ぎ、玄関の音がガチャッと音を立てた。

き、きた!!

私は無我夢中で玄関に駆け寄る。
ドアには鍵がかかっていたからレンは入れない。
そこにいるのはレンなんて決まったわけじゃないのに、私は鍵を開けてドアを開けた。

そこにいたのは勿論レン。
ボーカロイドが成長するはずがないのになんだか大人びた気がした。

「レン…?」
「マ、マスター!」

わわっ、
思いっきり抱きつかれて玄関に背中から落ちてしまった。

「レン、お帰りっ」
「ただいまマスター!」

よかった、いつもと変わらない。
というよりも、なんだか積極的になった気がする。
でもよかった、レンだ。
2週間ぶりにレンにあえたんだ。

「あっ、リン!?」

私に抱きついたままレンは声をあげる。
なんでそんなに驚いているのだろう。

リンはとても悲しい顔をしていた

続く

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