Novel

□恋、音色 17
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恋、音色 17

「リンは何が食べたい?」
「私はなんでもいいです」
「そう?」

レンがクリプトンへ戻され、その代わりにやってきたリンだけど、レンじゃないことがバレてからそっけないような気がする。
私の思い込みかもしれないけど、笑わなくなったような。
レンの変装をしていたときはレンとは比べ物にならないぐらい明るかったのに、何を言っても目をあわせようともしないし。
なんだか、複雑な気持ちになった。
もしかして弟のマスターはこんなに駄目人間だったのか…って呆れたとか!?

「リン」
優しく名前を呼んでみると「はい」と振り向いた。
勿論真顔で、寂しくなった。
「あ…その…」
「どうしました?」

「その、さ。敬語やめない?ほら。私たち家族なんだし!」
何を言っていいかわからなくなり、必死に身振り手振りで説明する私。
もしこれで否定されたら悲しくて死んでしまうかもしれない。

「え…でも…」
リンは胸元のリボンをくしゃっと握りつぶした。
や、やっぱり抵抗してる。つい肩を落とす。

「嫌ならいんだけど…」
「いえ!そう、するね?」

身を乗り出してリンは言う。
「あ、っ、あ、うん」
思わぬ言葉に間抜けな声が出た。

しばらくの沈黙。やっぱり嫌だったのかなあ。
心配になった瞬間ガタッ机に手を付き、リンが勢いよく立ち上がりながら「あの、本当は嬉しかったの!」と大きめな声をだした。
私の目は点。大きな声に驚いたのと嬉しかったという言葉にも驚いた。

リンは「あ…」と呟いた後、また勢いよくイスに座り込み恥ずかしそうに下を向いた。
「あ、ありがと」と小さく呟いた後、私は嬉しさが込み上げてきてリンの傍まで行き、頭を撫でた。
リンは驚いたように私を見た後、目をきゅっと瞑り私の左腕の裾を握った。

「リンね、誰かに家族って言ってもらったの初めて!レンはそんなこと言ってくれないの」

リンがにひひっと嬉しそうに笑った。
多分、これが初めてだと思う。

「レンは素直じゃないもんね。わかるよー」
「そうなの!マスターわかってるう」
最後に♪が付きそうなぐらいノリノリな感じでリンは私の肩を肘でつんつんと突っついてきた。
でもすぐに両手をひざの上に置き「馴れ馴れしくてごめんなさいっ…」と苦笑いを浮かべた。

そんな姿につい笑ってしまった。
リンの性格はこれが本当なんだなーと思って。
「いいよいいよ。だって家族だもんね?」
「うん!」
やっぱりリンは笑っていたほうが可愛いな。

「レンがマスターのこと好きな気持ちわかるなあ。」

レンが私のこと好きだって?それはないかと…
「え?それはないよ」
「ううん。だってレンが言ってたの、あっ!レンには秘密ね?」

リンは人差し指を口元に近づけ笑った。
私もつられて「わかったっ」と口元に人差し指を近づける。
レンが言ってたのか。なんだか嬉しいなあ。
レンがリンにそんな話をしている姿なんて想像できないけど。
「マスターの爪、キレイだよね!」

口元に近づけた人差し指で気づいたのか、リンは私の手を握った。
そういえばレンとリンは同じマニキュアを塗っている。
「そうかな?リンもキレイだよね。マニキュアも上手に塗れてるし」

オレンジと黄色の中間ぐらいの色。
光に照らされてキレイだった。
「ボーカロイドの皆のマニキュアは私が塗ってるの!カイ兄は苦笑いを浮かべてるだけだったけどレンは嫌がっててね」

カイ兄とはKAITOのことだろうか。
リン・レンの先輩にあたるボーカロイドだと思う。
青い髪にマフラーが印象的だ。
そっか。リンやレン以外にも色々なボーカロイドがいるんだもんね。
もしも他のボーカロイド沢山購入して家族にしたら、リンやレンは喜んでくれるだろうか。
うん、きっと喜んでくれるよね。

「そっかあ。ねえ、カイトやミクのことリンは好き?」
「勿論!カイ兄もメイ姉もミク姉もレンもみーんな大好き!あっ、でも一番すきなのはマスターだよっ」

そう言うと、リンは思いっきり私に抱きついてきた。
一番なんて、私には勿体無さすぎる。
でも、レンは大好きなんてめったに言ってくれないしなんだか新鮮だった。

「私もリンのこと、大好きーっ」
私もギュッとリンのこと抱きしめた。

でも、なにか違う。
やっぱり、レンがいなきゃ、変だよ。


続く


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