Novel

□恋、音色 15
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恋、音色 15

街中のウエディングドレスが飾られている前でボーカロイドと抱き合っているなんて今考えるとおかしな話だ。

でも本当によかった。
私の心から安心感があふれ出す。

「バカ!心配したんだよ?」
「ごめんなさい…」

私が抱きしめていたレンの体を離し、少し強めの声で叱った。
ううん。レンは悪くないんだよ。
私がいけないんだ。

「…私こそごめん」

小さな声でつぶやくとレンは私の肩に手を乗せた。
「マスターは悪くないよ!…オレが勝手に飛び出しちゃったのが悪いんだ…」

「ううん。あのね、私が嘘ついた理由は。レンに恥かいてほしくなかったんだよ…」

話を区切るように言うとレンは少し小さな声で「え…?」と言った。

「レンが来てからもう何ヶ月も経ってるのに私はレンが来てくれただけで満足してて、レンは歌うためのボーカロイドなのに私はレンにちゃんと歌わせてあげてなかったから…。きっと真由だって、他のボーカロイドを持ってる人だってマスターの役目をちゃんとしてると思う。私マスター失格だと思って。レンだってこんなマスター嫌だよね…」

言いたいことがありすぎて、長い文章になってしまった。
でもこれが思いの全て。
レンだってこんなマスターに飽き飽きしてると思う。
ボーカロイドの為に調教も十分にできないなんて、本当にマスター失格だ。

そんなことが頭を駆け巡っていると、目が熱くなってきた。
やばい、泣きそう。
自分の情けなさに涙が出そうになった。
レンはもっと良いマスターの所へ行ったほうが幸せなのかもしれない。

ねえ、レンは何を考えているの?
さっきから沈黙が流れていた。
町を歩く人々の声は通常に流れている。
「オレ…勘違いして…すみません!」
目を瞑り、私の肩に置いている手に力を入れた。

あ、あれ。怒ってない…?
「え…?なんでレンが謝るの?」
「だってオレ、マスターはオレの歌が下手だからとか勘違いして…。最低です、オレ。さっきまでマスターは前のマスターと同じなんだって思ってて…」

レンもすでに涙目だった。
なんだ、レンも泣き虫なんだなあ。
私はレンの目じりに少し溜まった涙を右手でそっと拭き取った。

「自分のこと最低とか言わないの。レンは最低じゃないよ?」
「マスター…。オレ、マスター大好きです!どんなことがあってもずっとマスターと一緒に居ます!」

今度は自分から抱きついてきた。
‘大好き'とか‘ずっと一緒に居る'という言葉は、照れ屋なレンが言うとなんだか気恥ずかしい。
いや、きっとレンの方が恥ずかしいんだと思う。
だってさっきから私に抱きつくようにして右手でネクタイをくしゃっと握っているから。

さっきまでレンは他のマスターといれば幸せだなんて考えていた自分が許せなかった。
レンは私と一緒に居てくれると言っているのに、きっと、私の思い込みじゃなかったら、レンの一番の幸せは私の隣に居ることなのかもしれない。

「うん、ずっとね。だって家族だもんね?」
「…うん……」

…え?
何故か‘家族'という部分に体を少し振るわせた。
…ように見えた気がした。
私の見間違えかもしれないけど。

家族じゃ、なかったっけ?
自分が言ったことに異変があったのだろうか。
少し心配しているとレンは私から離れてウエディングドレスが飾っているガラスケースに手を当てた。

乙女は誰でも憧れるウエディングドレス。
レンも着てみたいのかな…?
な、わけないか。

「綺麗だよね。この服」
「ウエディングドレスって言うんだよ?」
「そうなんだ!」

興味津々で見ているレンについ顔が緩んだ。
ボーカロイドだからウエディングドレス知らなかったのか。
「レンも着てみたい?」
「オレが着たいわけないだろ!…ねえ、マスターこれ着てみてよ」

うーん…。それはちょっと無理かもしれない。
ほら、相手もいないし。まだ15歳だし。
「これはね、ずっと一緒に居たいと思う人と誓う時に着るんだよ」

結婚式といても、多分レンにはわからないと思ってちょっと簡単に説明してみた。
レンは「ずっと一緒に居たい人…?」と呟くと私と向かい合わせた。
レンはまっすぐに私を見る。

「じゃあ、誓おうよ!それ!オレ、マスターとずっと一緒に居たいもん」

あはは、いきなりプロポーズっすか?
少し笑ってしまった。
「あははっ、これは18歳になってからじゃ誓えないんだよ?」
「じゃあそれまで待つよ!ずっと、ずっと待ってるから、誓いたい。マスターのウエディングドレス着てる姿見たい。ね、約束して?」

本当に告白されたような気分になってしまい、顔が赤くなるのが自分でもわかった。
バカじゃないの、私。
レンはきっと理解していないんだと思う。

でも、ここで断ったらやっぱり傷つくのかなあ…?
私は冗談半分で、レンに微笑んだ。

「わかった、約束ね」


18歳までにきっとレンは理解してくれると思う。
18歳まで、まだまだなんだし。

それまで私も夢、みていたいかもしれない。

続く

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