Novel

□恋、音色 14
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恋、音色 14

辺りは暗くなってきた。
もう、駄目なのかもしれない。


そう思うと、走るスピードがだんだん落ちてきてついにはピタリと立ち止まる足。

「も…やだ…」

足が痛い。
こんなに走ったのも初めて。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。
私が恥ずかしがって嘘ついたからだ。
そうだよ、元はといえば私のせい…

「お願いだから戻ってきてよ…」
不意に漏れる言葉。
落としていた視線を上へと戻す。

あ…
いた。レンだ。

ウエディングドレスが飾ってあるガラス張りのケースにに手の平をくっつけ、まじまじと見ている。

な、なにして…

「レン…?」
「ま、マスター!」

驚いたように振り向くレン。
よかった…無事だ…


そう思うと目尻がだんだんと熱くなっていく。

安心感が波のように押し寄せてくる。

「ごめんなさい、マスター。オレ帰ろうと思ったら家どこかわかんなくなっちゃって…」

苦笑いを浮かべているレンに近づいた。

そのまま人目を気にせずレンを抱きしめた。
「ます…たあ…?」
「よかった… よかった…」

何度も何度も。『よかった』と壊れたテープレコーダーのように私は呟いた。


続く


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