It snows.

□#6
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僕は色々な人に拾われ、捨てられてきた。
そんな事にも慣れてきたのに、
どうしてこんなにも嫌われる事が怖くなるの


It snows_6



今年一番の寒さです。
そう言って落ちそうなマフラーを触る天気予報をするおねーさん。
そういえば、今年で一番肌寒いもしれない。
マスターはこんな寒い中学校行って、大変だな。
マスターには悪いけど、僕は熱いお茶と毛布があって暖かい。

まだ、10時か。
マスターは大体7時ぐらいに帰ってくるからまだまだだな。
よし。今日は掃除しよう。
えっと、マスターの部屋入ってもいいか、な。
少し迷った挙句、マスターなら気にしないと思って片付けることにした。

そういえばマスターの部屋入るのはじめて。
少し緊張してドアノブを握る。

「あれ、綺麗だ」

予想以上に綺麗で声が漏れる。
これなら僕が片付けなくても心配ないな。

そう思いながらもついつい入ってしまう。
棚はこれ以上にないぐらい整理されていて見惚れる。
沢山本が入っている本棚を見て驚いた。
マスター、本読むんだ。
新しいマスターを発見できて心の中で喜んでいると机の上においてあったアルバムに気がついた。

勝手ながら、手が止まらない。
アルバムを開くと小さな女の子と男の人と女の人。
きっと、マスターとマスターのお母さん、お父さん。

微笑ましい、とうか、なんだか羨ましく思えた。
そのまま次のページを開く。
同い年ぐらいの子がマスターと並んで笑っている。
友達?

そうだよね、マスターだって友達がいるんだ。
きっと充実した学校生活なんて送ったりして。
好きな人なんか、できたりして。


好きな人、いるのかな


いるんだろうな。
マスターのこと好きな人だっているのかもしれない。
もしかしたら、彼氏なんか。

いるの、かなあ…


アルバムを次々とめくるたび胸が痛くなる。
マスターが幸せそうに笑うそのぶん、痛みが増す。
僕の知らないマスターが沢山あるんだ。

「あ、あれ」

これ、KAITO?

見慣れたマフラー。
KAITOがマスターと並んでいる。
洗濯物を干している二人や料理を作る二人。
アイスを食べる二人の幸せそうな表情が目にやき付く
この白い部屋も変わりない。

もしかして、KAITO、持ってたのかな。

そのまま最終ページ。
一枚の写真が貼ってある。

「え」

なに、男?

その写真にはマスターの姿がなく、ただマスターと同い年ぐらいの男が写っていた。

だれ、


「たーだーいーまー」

聞こえないはずのマスターの声が玄関からかすかに聞こえた。
あれ、もう7時?!

ってことはないと思うけど。
時計に目をやるとまだ10時29分だ。
とにかく玄関へと向かうとダルそうにマフラーを取るマスターの姿があった。

「ますたー」
「あー、レン」

力なさそうに笑うマスター。
いつもと違うのがはっきりと分かった。

「どうしたんですか」
「ちょっと風邪ひいたみたいでさ、早退してきちゃったよ」

顔色が悪い。
こんなに寒いのに汗、かいてるし。
熱あるんだ。
そう悟ってマスターの荷物を持った。

「すぐに、休んでくださいね」
「あ、ありがとおー」

私の息子よーとか言いながら僕を撫でる。
息子って…
かすかに触れたマスターの手がいつもより熱かった。

「薬持ってきます、待っててください」
「うん。ありがとー」

つらそうなのが目に見えていてなんだか気分が乗らない。
薬と水を持ってきてマスターに渡した。
ベットに横たわっていたマスターは本当にありがとね、と一言言ってから薬を飲み干す。

「大丈夫ですか、つらい、ですか」
「ちょっと、いや。かなり」

力なく笑うマスター。
笑ってる場合じゃないですよ、熱39度4分て書いてあるじゃないですか。
呆れた。早退までして、こんなに熱あってつらいのに無理して笑って。

「まったく、又お水持ってきますね」
「あー、まった」

ネクタイを引っ張られ軽く喉がしまる。
「なんですか」
「水は、いいや。なんか一人にしてほしくないかなーって」

僕は一つ頷いてベッドに座った。
しばらくの沈黙。
なに話していいかわからない。

ありがとうと又言って再び横たわるマスター。
今日はよくお礼を言われる日だな。

僕は何も言わずマスターを見つめた。
こんなに喋らないマスター初めてみた。
いつもなら僕が話しかけなくてもうるさいぐらい何かしら言葉を発するのに。

「ごめんね、レン」
「どうして、謝るんですか」

必死に笑顔を作ってるのがわかる。
本当は眠りたい癖に僕に気遣って。

「心配してるでしょ?」
「どうでしょうね」

意地悪く言うとマスターは「してなかったの?酷いなあ」と眉を顰めながら笑う。

そんなはずない。
今だって凄く心配して、できるなら僕が代わってあげたいぐらい。


そりゃあ、人間なら風邪引くことぐらいあると思うけど。
こんなのマスターじゃない。

早く治して笑っていてほしい。
どうすればいい、僕に何か出来ることは。
僕なら風邪を引ける。
僕が代わりに、

僕は何も言わずマスターの唇に自分の唇を重ねる。
マスターの体が少し揺れるのが分かった。
しばらくして離すとマスターは目を見開いて僕を見ている。

「な、に。え、なにした!?」
「えっと、こうすれば風邪も移るって聞いたことがあって」

マスターは指を自分の唇にそえた。
どうしてそんなに怯えた顔しているの。
こうすれば、マスターの風邪だって僕に移って、いつも通りマスターは笑ってくれると思ってやったのに。

「そういう問題じゃないよ!もういいから出てって」
「な、んで」
「いいから!」

今までに見た事ないマスターの冷たい目に何も言えなくなる。
僕はそのまま部屋を後にした。

どうして、怒ってたんだろう。
怒ってる、ってことは、
好かれていない。
好かれていないということは、嫌われてる。

今、僕マスターに嫌われて、る

思った瞬間、寒気がした。
やだ、やだ怖い、
嫌われたくない!

慌ててドアノブに触れる。
でも、ここで入ったりしたら又怒られる。

どうすれば、いいの

僕はなにもできないままドア付近に座り込んだ。
誰かに嫌われる事がこんなに怖いと思った事はない。

数分たったのを感じて僕は少しだけドアを開けた。
マスターが着替えているのが見える。
どこか、行くの。

マスターがこっちに近づいてくるのに気がついて急いでドアから離れる。

マスターは何も言わず僕の傍を通り抜けた。
「ま、すた。どこ行くんですか」
「いつも行くところ」

それだけ言うと早足で廊下を歩いていく。
駄目だよ安静にしてなきゃ、こんな寒い中又出かけるなんて絶対に駄目だ。

だけど、何も言えない。
ここで何か言ったら又気に障るようなこと言ってしまいそうで。

でもここで何も言わなかったら、もう二度と帰ってこないような気がして怖くなった。

「あの!いつも何処へ行ってるんですか!」
少し大きめの声がでる。
マスターは振り向いて「レンには言いたくない」とだけ言った。

やっぱり、怒ってる。
僕は玄関へ向かうマスターを必死で止めた。
強くマスターの腕をつかむ。

「どうして風邪引いてるときにまで行こうとするんですか!」
「別にいいでしょ、行きたいの。お願いだから離してよ……」
「僕は行ってほしくないです!風邪引いてるのに、凄い熱なのに駄目です絶対」
「気にしてくれるのは嬉しいんだけど、ごめん。お願いだから離して」

どうして、そこまで。
僕はマスターの腕を離した。
脳内で浮かびあがった言葉がそのまま口から出た。

「アルバムの、最後のページに貼ってあった男のところですか」


言った時点で後悔した。
マスターはまるで軽蔑するかのように僕を見る。

「な、に。部屋に入ったの…?」
「ごめ、ごめんなさいっ、僕、あの」
「そう、かもね。少なくとも、私の一番大切な人の所に行くだけ」


それだけ言うとマスターは玄関から飛び出した。
追いかける事ができなかった。

マスターの一番大切な人、
きっとあの男なんだ。

マスターの一番大切な人は、
僕じゃない

僕は動けないまま開きっぱなしになったドアを見つめていた


続く


_______

マスターが酷いのは俺がレンきゅんいじめをしたかっただけ←

KAITOをリンにしようか迷ったけど今回はKAITOにしてみた

ホント話がベタで申し訳ない(´・ω・`)



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